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聖光学院が見せた真の高校野球。
幻の14連覇と新たな歴史の始まり。 

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田口元義

田口元義Genki Taguchi

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photograph byGenki Taguchi

posted2020/08/20 08:00

聖光学院が見せた真の高校野球。幻の14連覇と新たな歴史の始まり。<Number Web> photograph by Genki Taguchi

福島県の高校野球独自大会を制した聖光学院と監督の斎藤智也(中央下)。

まだ怖さすら感じられていなかった。

 6月12日。聖光学院にとっての「心のなかの甲子園」を目指すことができる、福島県の代替大会が決まった。だからといって、聖光学院の夏を戦いきる材料が整ったわけではなかった。

 大一番に臨むにあたり、斎藤や横山はじめ、聖光学院の指導者が選手たちに強く求めたのは、「怖さの克服」だ。

「優勝したい」「勝てるのか?」「負けたらどうしよう」。そういった欲望や不安を浄化する。「俺たちはやるだけのことをやった。試合で力を出し切った先に、望む結果がある」と達観した精神状態に持っていく姿勢こそ、夏の聖光学院の仕上がりを意味する。

 シード権を逃した聖光学院のブロックには、初戦の日大東北を皮切りに、いわき光洋、白河、学法石川、そしてセンバツ代表校の磐城と県内の強豪がひしめく。個人的には「激戦区」を勝ち抜き頂点に立つことの意味を、聖光学院は見出しているだろうと感じていた。

 斎藤にもそのイメージはあった。しかし、大会直前の口調は少し重かった。

「まだだ。まだ仕上がりを実感できねぇんだ。去年までと比べるとメンタルができあがってねぇ。弱いんだ。全国の高校にとっても初めての試練だからしょうがないのかもしれないんだけど、俺はそれを言い訳にしたくない」

 監督の懸念は、選手たちも認めるところだった。内山が主将として代弁する。

「大会の1週間くらい前に、横山部長から『怖いやつ、手を上げろ』って言われたとき、半分くらいしかいなかったんです。まだ怖さすら感じられていなかったというか、大会に入り込める雰囲気ができていなかったというか。チームとして未熟だったと思います」

 内山としては、1-0で逃げ切った初戦の日大東北戦から「怖さを克服すれば、開き直れると思った」と、チームを見ていた。

 一方で、斎藤の見立てはシビアだった。

「まだ、重苦しい空気は取れていなかったね」

選手にしかわからない失望をもっと。

 3回戦でいわき光洋に10-0の5回コールド、4回戦の白河には先制されながら、終わってみれば7-3と地力を見せた。そして、準々決勝の磐城戦でも先制されるなど、相手の圧力を感じながらも4-2で振り切った。

 結果だけで受け取ればチーム力は上がり、聖光学院として仕上がっているようにも感じるが、斎藤は不安を漏らすように言い放っていた。

「相手を見下しているわけじゃないけど、最後の詰めの甘さを感じたというかね。もっと点を取れていたと感じる試合が目立った。いつもなら一戦、一戦、自然体で戦って成長していくのが理想だけど、今年は一戦、一戦やり切っても『まだ足りねぇ』っていうくらいの姿勢を出してもらいたいんだ。甲子園がなくなったっていう失望は、あいつらにしかわからない。だからこそ、勝利へのモチベーションとか意味を見出せる強さがあると俺は思ってるんだ。それを試合でやらないのは、甲子園への冒涜と同じだから」

【次ページ】 「負けないな」と感じられた。

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