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聖光学院が見せた真の高校野球。
幻の14連覇と新たな歴史の始まり。 

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田口元義

田口元義Genki Taguchi

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photograph byGenki Taguchi

posted2020/08/20 08:00

聖光学院が見せた真の高校野球。幻の14連覇と新たな歴史の始まり。<Number Web> photograph by Genki Taguchi

福島県の高校野球独自大会を制した聖光学院と監督の斎藤智也(中央下)。

甲子園が中止になって生まれた決意。

 斎藤と横山はそうやって選手の尻を叩く。野球ノートやミーティングなどでは、自分自身をとことん掘り下げさせた。「磐城の足元にも及ばないけど」と斎藤は自嘲するが、例えば漢字や熟語、慣用句を模範解答ではなく個々で解釈させるなど、様々なアプローチでチームの感性を磨かせた。

 4月。コロナ禍による活動自粛が続くなか、斎藤は嬉しそうに話していた。

「生徒らなりに未熟さと向き合って、オフはいい歩みができたと思うんだ。夏に向けて、楽しみなチームになりつつある」

 そんな聖光学院の期待をあざ笑うかのように、“見えざる敵”の猛威は勢力を広げていった。春の大会の中止が決まり、5月20日には夏の甲子園も幻と消えた。

 実はその5日前、一部スポーツ紙に大会の中止を示唆する記事が出た時点で、斎藤と横山はチームに覚悟させていた。甲子園の中止が決定した20日も選手たちに涙はなく、毅然としていたという。

 なぜなら、すでに彼らのなかにある決意が芽生えていたからだ。

「心のなかの甲子園を目指そう」

野球を愛する気持ちをもう一度。

 この合言葉をチームに浸透させたのは部長の横山だった。

 甲子園が「消えた」と自覚させられた日。横山は主将の内山に問いかけた。

「試合に勝つことや甲子園が高校野球の全てじゃない。でも、お前らがここまで頑張ってこられたのは、やっぱり『甲子園に出たい』って強い気持ちがあったからなんだよな。その甲子園は中止になったけど『目指せ甲子園!』って言い続けられたら、俺はかっこいいと思うんだ。お前らの心のなかには、今でも甲子園がある! そこに絶対にたどり着けるんだと、俺は信じてる」

 言葉の真意を、横山が力強く説く。

「小さい頃に野球を始めてから高校まで続けられるのは、甲子園を愛しているからじゃなくて、野球を愛しているからだよね。その気持ちをもう一度、感じてほしかった。この先、大学、社会人、プロで野球を続ける人間もいるけど、高校球児の大多数が高校で一区切りつけると思うんだ。そう考えると、3年の夏は野球人生の集大成なわけだ。多くのものを犠牲にしてでも目指した甲子園はなくなったけど、野球を愛しているのなら、最後までおろそかにせず、やり切ってほしい。それが、聖光学院の野球だから」

 横山の言葉を全身で受け取った内山は、学校の教師や他競技の顧問などから同情を向けられても「心のなかの甲子園を目指します!」と宣言し続けた。その想いは、選手間のミーティングを通じてチームの精神にもなった。

【次ページ】 まだ怖さすら感じられていなかった。

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