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聖光学院が見せた真の高校野球。
幻の14連覇と新たな歴史の始まり。 

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田口元義

田口元義Genki Taguchi

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photograph byGenki Taguchi

posted2020/08/20 08:00

聖光学院が見せた真の高校野球。幻の14連覇と新たな歴史の始まり。<Number Web> photograph by Genki Taguchi

福島県の高校野球独自大会を制した聖光学院と監督の斎藤智也(中央下)。

甲子園がなくても捨てられないもの。

 エースの舘池亮佑は、昨秋のベンチ外から急成長を遂げ、大会では7試合に登板し53イニングを投げて防御率0.51。圧巻のパフォーマンスを披露した。東北大会初戦の鶴岡東戦でサヨナラ打を放った7番を打つ主将の内山蓮希、仙台育英戦で先制打の4番・畠中子龍ら、打線も上位から下位まで得点を演出してきた。1試合平均6.1得点、0.9失点。県大会から東北の頂点までの8試合、聖光学院は投打のバランスがとれていた。

 戦うたびに成熟していった選手たちに、斎藤は特別な感情を寄せているようだった。

 そう感じたのは「『何もない』ところから始まって、この結果を生み出せたことは、聖光学院にとって大きな意味があるのではないか?」と質問した際の斎藤の返答が、以下のようなものだったからだ。

「ないものから何かを生み出すのは大変だかんね。でも、実際にはあるんだ。チームのこれまでの歩み、チーム愛、チームの仲間たちへ何かを還元する想い……。それは、今年も変わらずあった。『ない』ではなく、大切なものを捨てるわけにはいかないと臨んだのが、今年の夏だったよね。甲子園はない。そのなかで勝たせてもらった今年は、今まで以上の大きな価値がある。これがまさに、本当の意味での高校野球なんだって、俺は思うね」

 斎藤が言う「本当の意味での高校野球」。今年の世代は屈辱から立ち直り、それを実現させた。

聖光学院に来たら甲子園に行けるなんて。

 昨年の秋。聖光学院は県大会初戦で、学法石川に2-10の7回コールドで大敗した。未勝利で秋を終えるのは、斎藤が1999年の秋に監督となってから初めてのことだった。

 例年、聖光学院のシーズンオフは、徹底的に心と体を鍛えさせる。今回はとりわけ、選手たちに「心」を一から見つめ直させた。

 入学時から斎藤や部長の横山博英が口酸っぱく説いていることを、より強調する。

「お前ら、聖光学院に来たら甲子園に行けるなんて、まだ考えてんじゃねぇのか?」

 聖光学院指導陣は、その選手の思い上がりを「レッドカーペットの上を歩いていると錯覚する勘違い集団」と、あえて揶揄する。

 夏の連覇は一年、一年、先輩たちが築き上げた歩みの証であって、現役世代はまだ何も成しえていない。昨秋に至っては未勝利と、結果的に“汚点”も残している。

 さらには文武両道を地で行く磐城がその秋に東北大会ベスト8まで勝ち進み、21世紀枠でセンバツ代表校に選ばれた。そのことも、聖光学院の未熟さを強く実感させる契機になった。

「野球だけやればいいと思っているお前らと、野球も勉強も負けないと日々励んでいる磐城。どっちがすごいだろうな?」

【次ページ】 甲子園が中止になって生まれた決意。

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