ぼくらのプロレス(再)入門BACK NUMBER
鈴木みのるが語る無観客ヒール論。
「前提をお前ら、忘れてねえか?」
text by
堀江ガンツGantz Horie
photograph byGetty Images
posted2020/08/14 11:30
7月31日、永田裕志に強烈な張り手を見舞う鈴木みのる。会場から大きなどよめきが起こった。
歓声も罵声もレスラーが作り出すもの。
「観客がいようがいまいが、声援があろうがなかろうが、俺がやることは一緒だよ。相手をぶん殴って、ぶっ飛ばして、勝つっていうことをするだけだからね。
もちろん、観客は声を出して応援しながらプロレスを観た方が盛り上がるし、楽しいというのはあると思うけど、闘う側である俺にはそこまで関係なかった。
そもそも俺は、観客の『がんばれ!』とか『やっちまえ!』みたいな声援や罵声はいいけど、コールとかチャントって好きじゃないんだ。野球とかサッカーの応援歌もそうだけど、本来、プレイヤーが観客を乗せていくべきものなのに、いつしかお客さんの方がレスラーより先に立って、先導役をしているような気がして、じつは嫌いなんだよ。
だからブーイングに関してもそう。ファンがレスラーの先を歩いて、『ヒールにしてあげる』みたいな感じのブーイングも中にはある。そういうのを聴くと、本当に『うるせえ、黙って見てろ!』って思うもんな。あんなのは、ブーイングでもなんでもないよ」
歓声もブーイングも本来は、レスラー側が作り出すもの。そういった信念が鈴木の中にはある。
「俺の試合は黙ったままじゃ見れない」
「そもそも、俺は自分のことをヒールだなんて思ってないからね。ヒールって悪役のことでしょ? 俺は悪の役なんてやってないから。もしヒールに見えるのであれば、それはオカダ・カズチカ、内藤哲也、棚橋弘至らを応援しているファンから観たら、俺がそう見えるだけ。俺があいつらを痛めつけて、憎らしいから、あいつらのファンが俺に罵声やブーイングを浴びせる。
それは俺が生み出したものだから、罵声もブーイングも歓声と同じ意味があるんだよ。だから『黙ってみてろ!』って思いはあるんだけど。残念ながら、俺の試合は黙ったままじゃ見れない。すごい試合を見たら、いくら『声を出しての声援はご遠慮ください』なんて言われても、自然と口から声が出てしまう。俺はそれこそが本当の歓声だと思う」