スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
ラグビーの「獣性」が凝縮された、
イングランドとジョージアの奇祭。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by Keijiro Kai
posted2020/07/29 20:00
イングランド中部のアッシュボーンで、17世紀より続く「Shrovetide Football」の1コマ。写真集『骨の髄』より。
午後2時から10時まで続く"フットボール”。
アッシュボーンで行われる「Shrovetide Football」は、1669年にすでに開かれていた記録がある。チーム編成は、町を流れる川を挟んで「アッパーズ」と「ダウナーズ」に分かれるという。そして現在も午後2時に試合が始まり、午後10時まで続く。午後5時半までにボールが相手陣に運ばれた場合は、新しいボールが投入されることになっている。
お祭りは、長い時間楽しまないとね――というスピリットは今にも引き継がれている。
というわけで、知識としてここまでの事実は知っていた。
しかし、甲斐さんは実際に現地に足を運ぶ。イングランドの人口1万人足らずの町、アッシュボーンに。
「ラグビーが好きだったからです。ラグビーの起源を撮りたいなと思って行ったら、予想外にけったいな世界が広がっていた」(写真集より。以下同)
「そもそもボールが写っていなかった」
町総出のフットボールは、どんなものだったのか。
「それまでの写真術がまったく通用せず、想像していたものはまったく写せなかった」
とにかく大勢の人が参加しているから、試合の「へそ」となる部分が見えないのは想像がつく。次の一文が素敵だ。
「そもそもボールが写っていなかった」
ボールがないマスフットボールの写真が、実に雄弁なのである。
昨年のラグビー・ワールドカップを観た人には、ぜひとも眺めて欲しい。
ここにはフットボールの原初のスタイルが活写されており、男たちが持つ勇猛さ、暴力性、そしてその奥に潜む試合に参加する「喜び」が見えてくる。