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プロ野球選手→メンタルコーチ。
今浪隆博が「うつ」に気づいた日。
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph byHaruka Sato
posted2020/07/17 10:00
日本ハム、ヤクルトで活躍し、2017年に引退した今浪隆博。現在はメンタルコーチの肩書きを持つ。
4万人に見つめられるダメージ、恐怖。
'17年秋、戦力外通告を受けた今浪は、ショックを受けながらも次の目標に向けて気持ちを切り替えた。古巣の球団からはすぐにスタッフとしてのオファーも届いたが、その温情に感謝しながらもあえて野球界をいったん離れて学ぶことを選んだ。突き動かしたのは、「選手の精神面を支えるコーチになりたい」という思いだ。
メンタルコーチについ自分なりに調べ、第一人者である鈴木颯人氏のもとへ半ば強引に押しかけて弟子入り。'18年に「スポーツメンタルコーチ」の資格を取得し、'19年には「MOTIVE WAVE」を起業し、個人契約でアスリートやスポーツチームなどを支える仕事を始めた。
振り返っても、プロ野球の世界は特別な場所だったと感じる。
「自分が仕事をしている一挙手一投足を4万人に見詰められている、と想像してみてください。失敗すればため息や、ブーイング。それだけ対価も大きくて、多くの人を喜ばせられる幸せな仕事ではあるけれど、反面失敗した時のダメージ、恐怖というものは経験した人にしかわからないと思う」
かつて自分が出会えなかった存在になる。
自分の経験以外でも、スポーツにおけるメンタル面の重要性を目の当たりにしてきた。
例えば「エレベーター選手」。はたから見てずば抜けた実力があり、ファームでは無敵の存在でも、一軍に上がると全く結果が出せずすぐに二軍に戻ってくる。運動機能障害の一つである「イップス」に苦しむ選手も多かった。常に成績を出すことが求められる競争社会で、首脳陣との関係に悩んだり、SNS上など外野からの心ない批判に悩むケースもある。
「結果を出すことに苦しんでいる人、やるべきことを見失っている人に対してサポートしてあげたい。縁の下の力持ちじゃないですけれど、苦しんだ経験のある僕を必要としてくれる方に出会って、何か提供できたらと考えています」
第二の人生で目指しているのは、かつて自らが渇望しながら出会えなかった存在。
「病気になったことも心を病んだことも、いい経験だったと今は思う」
新たな夢を形にしていくなかで、あの日の苦闘はかけがえのない財産として意味を持ち始めている。