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プロ野球選手→メンタルコーチ。
今浪隆博が「うつ」に気づいた日。
posted2020/07/17 10:00
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph by
Haruka Sato
「今浪さん、それ、うつ病でしたね」
日本ハム、ヤクルトで活躍した今浪隆博がそんな言葉をかけられたのは、11年間のプロ野球生活を終え、半年ほど経った2018年のことだった。
現役時代に甲状腺機能低下症(橋本病)と闘った経験から、医師会で講演をつとめた後、聴講していた精神科の医師から声をかけられた。
「甲状腺の病気の症状とうつ病を間違えるケースは実は多いんですよ」
医師の言葉に、今浪は不思議と胸のつかえが下りるような思いがした。
「ああ、あれってうつ病だったんだな、と。その時初めて納得できる答えにたどり着いた気がします」
体調は回復したが、心は重かった。
今浪は現在、都内でアスリート専門のメンタルコーチとして活動する傍ら、社会人の軟式野球の実業団チーム「GORILLA CLINIC BASEBALL」で監督をつとめている。なぜ元プロ野球選手がメンタルの仕事に興味をもったのか。きっかけは、まさに現役時代の苦闘だった。
ユーティリティープレーヤーとして活躍し、'15年は勝負強い打撃でヤクルトの14年ぶりのリーグ制覇に貢献した今浪。病魔が襲ったのは一軍で自己最多の94試合に出場していた'16年8月のことだった。
むくみや倦怠感などの症状が続き、倒れ込むようにしてたどり着いた病院で下された診断名は、甲状腺ホルモンの分泌が低下する甲状腺機能低下症だった。緊急入院、投薬治療などを経てようやく数値は安定し、体調は徐々に回復傾向を辿った。
迎えた'17年シーズン。医師からゴーサインがでて試合に復帰したが、なぜか心だけは重いままだった。今浪が当時の苦しみを明かす。
「練習や試合に行くために朝起きると、自然と涙がボロボロ止まらなくなるんです。人と会いたくない。喋りたくない。チームスポーツでそんな状態では申し訳ないと思うと、余計に辛かったです」