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藤井聡太の天才性を渡辺明が評した。
「羽生さんに近いところを感じる」
text by
北野新太Arata Kitano
photograph byTakashi Shimizu
posted2020/06/28 20:15
2017年、ブームの真っただ中にあった藤井聡太について、渡辺明は冷静に分析していた。その後朝日杯将棋オープン戦などでも対局している。
サッカーで言うと「8番」的な。
ただ、現時点で藤井が偉業を成したことは事実でもある。29もの白星を積み上げた14歳の藤井の将棋とは、どのような個性を持つのだろう。現地観戦に赴くほどの欧州サッカーフリークである渡辺は、現代サッカーのトレンドに重ね合わせて表現した。
「最近のサッカーの戦術は多様化しすぎていて正直、訳が分からない(笑)。システムのことを言うと、中継を見ていると攻撃時と守備時の2パターンが表示されたりしますよね。青年監督とかがいっぱい出てきて、何かが変わっている時期なんでしょうけど、『守備時はファイブバックになるスリーバック』が理解出来ないです。
センターバックの役割はどうなるのか、なぜ今まで存在しなかったのか……。藤井君の将棋も戦術に型のようなものがなく、言わば何でもありなんです。サッカーでは結果が出なくても10試合くらいはある程度、メンバーを固定して戦うことが多いですが、藤井君の将棋は既に戦術眼の広さを見せています。
サッカー選手のポジションで言えば『8番』のような前線の攻撃型の選手なんですけど、守備をしてもうまくて何でも出来てしまうから、1人で全部やっちゃうような選手と言えばいいでしょうか。いろんなふうに論じることが出来る将棋だと思います」
「羽生さんに近いところを感じる」とは?
両極端な例は実戦の盤上で出現している。最速の手順で相手の王将を詰ましてしまう「光速の寄せ」で棋界を席巻した谷川九段のようなオフェンシブなスタイルを披露することもあれば、相手の攻めを徹底的に受け止める「千駄ヶ谷の受け師」こと木村一基九段のディフェンシブな棋風を踏襲したような将棋を展開することもある。
「どっちもやってしまうんですよ(笑)。どちらも指しこなそうとしているのだとしたら、ちょっとすごいです。王道のきれいな将棋も指すし、相手の得意な戦型を迎え撃つのは羽生さんに近いところを感じる時もあります。羽生さんもオールラウンドプレイヤーと言及されることが多いですが、木村さんのような受け将棋は指しませんから」