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藤井聡太の天才性を渡辺明が評した。
「羽生さんに近いところを感じる」
text by
北野新太Arata Kitano
photograph byTakashi Shimizu
posted2020/06/28 20:15
2017年、ブームの真っただ中にあった藤井聡太について、渡辺明は冷静に分析していた。その後朝日杯将棋オープン戦などでも対局している。
29連勝の時に感じていたこと。
連勝中は新聞、テレビ、インターネットに「藤井」の名が連日躍った。将棋が社会現象を巻き起こしたのは、渡辺が棋士になってから初めてのことだった。
「対局する立場ではなかったので、自分の業界に起きていることとは全く思えなくて、喜ばしいことだなと思っていました。私も世間の報道と同じで10連勝くらいではまだまだ驚きませんでしたが、20連勝近くなって、どうやら新四段の規格ではないと関心を持ち始めました。
対戦相手はみんな見せ場だと思って張り切って臨むので、相乗効果を生んでいます。羽生さんは常にみんなの目標として当たり前に存在しているけど、過去十数年、特定の棋士に対してみんなが張り切ることなんてなかった。自分も対局するとなったら張り切ると思いますよ」
渡辺がタイトルを持つ竜王戦でも、藤井は11人の中から挑戦者を決める決勝トーナメントまで勝ち上がる快進撃を見せた。
「佐々木(勇気)五段(現六段)に負けて連勝が止まるところで、(渡辺に挑戦するまでは)あと5勝必要でしたから、一般論で言えば、対戦する現実味はまだないですよね。ただ、一度負けない限りは底が見えないので、周りはみんな夢を見ていたと思います。何しろ29勝無敗でしたから。底の見えないものに対して一般論は通じない。それこそ『人類ではもう誰も勝てないんじゃ』みたいな感覚だったでしょう(笑)」
今の成長曲線で行けば羽生さんと同じ…
ただ、渡辺は世間の熱狂に流されてはいない。視線はクールだ。
「当然、今の時点での藤井君の評価は定まっていません。これまでの対戦相手は四、五段の棋士が多く、早指し棋戦(持ち時間の短い対局。実力を計りにくいとされる)も多いです。いわゆるトップクラスとの公式戦はまだ5局くらいですから、評価として不透明な部分はあります。あと20、30局のサンプルは見たいなとは思います。
自分も最初の2年くらいは一線級の人とあまり当たらなくて、3年目くらいに羽生さんとか佐藤康光(現日本将棋連盟会長、永世棋聖資格保持者)さんとかと対戦して、ちょっと力が違うなと感じたので。どのくらいの棋士になるのか、ある程度分かるようになるのは3年後くらいじゃないですか? 今の成長曲線で行けば羽生さんと同じくらいまで達すると思いますけど、まだ推測や期待の域を出ないです」