スポーツはどこへ行くBACK NUMBER
実は簡単ではなかった女子ゴルフ再開。
開催を決断したアース製薬会長の心。
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byShigeki Yamamoto
posted2020/06/23 11:50
インタビューに応じる大塚達也氏。'86年に大塚製薬入社、'90年にアース製薬入社。代表取締役社長を経て、2014年より会長を務める。
「今年はテレビ放映をしないと決めていた」
とはいえ、ツアーの先陣を切って大会を無観客で開催することは、理想を語る以上に現実的な折衝の繰り返しだった。
会場にいるギャラリーやプレーしている選手たちが一目見て分かるような、スコアボードを設置するかどうか、プレーの安全を確保するためにコースとギャラリーの導線を仕切るローピング。これまでのトーナメントでは当たり前のものと思っていたそうしたことのひとつひとつまで話し合った。
「スコアボードやローピングなどはギャラリーのために必要だと思っており、今回は無くすことを提案した。だが、どうやらそのためだけではないようで、何度もやり取りをかわし、必要最低限の所に設置することとした。今までのやり方を変えようとすると、当たり前のことでも、すごく時間と手間がかかる」
一事が万事この調子。しかし衝突ばかりではなかった。
今大会はテレビ放送をせず、4チャンネルのネット配信を実施する。コロナの問題が起こる以前から、大塚は「今年はテレビ放映をしないと決めていた」と言い、視聴者数などを測定できるという点では、ツアーにとっても有益なテストケースになるだろうと考えている。
そうした1つ1つの準備が、アフターコロナの時代のゴルフトーナメントのひな形を作り上げる作業でもあった。
「彩りある充実した人生を送るには……」
「別にスポーツがなくても生活に支障はないし、一生を全うすることはできるわけですよね。スポーツとか音楽とか文化がなくても、衣食住があれば別に問題ない訳です。
しかし、人間が人間である以上、彩りある充実した人生を送るには、そういったものが絶対に必要であると。僕はそういう風に信じている人間なんですよね。
余裕があるなら、それをサポートするのが大事なことじゃないか。そう信じているだけなんです」
人混みにいればマスクをつけるような他者への思いやりを持ち、パトロン的な献身性を貫く。この時代にスポーツイベントを開くために。それこそが求められるものになっていくのだろうか。