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実は簡単ではなかった女子ゴルフ再開。
開催を決断したアース製薬会長の心。
posted2020/06/23 11:50
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph by
Shigeki Yamamoto
考えていたのはできるかできないか、ではなかった。どうやってやるのか。新型コロナウイルスが嵐のようにスポーツイベントを次々と中止に追い込んでいくなか、大塚達也がじっと考え続けていたのは、そのことだけだった。
「決断という決断はしていないと思います。この週よりも前だったら中止になっていたかもしれない。たまたま時運が巡ってきただけの話なんです」
ゴルフの国内女子ツアーが、6月25日開幕の『アース・モンダミンカップ』で今季初戦を迎える。主催者であるアース製薬会長の大塚に開催に踏み切った理由をたずねると、さらっとしたそんな答えが返ってきた。
本来の開幕戦である3月の『ダイキンオーキッドレディス』が中止となり、その後の大会も軒並み中止となった。感染リスクの懸念や、4月7日には緊急事態宣言が出され、トーナメント開催は不可能な状況となっていた。
「緊急事態宣言前だったら、私は開催したかもしれない。今もたまたま、大会をできる状況になったので開催することにしたんです」
実は簡単な決断ではなかったトーナメント開催。
避けようのない逆風が少しだけ弱まってきたのが5月下旬。ゴルフ関連5団体新型コロナウイルス対策会議が「日本国内プロゴルフトーナメントにおける新型コロナウイルス感染症対策ガイドライン」を発表し、プロ野球やJリーグも次々に再開を決めていった。大塚の言う「時運」が巡ってきたのがこのタイミングだった。
しかし本当に時の運だけかというと、そうは言い切れないところがある。『アース・モンダミンカップ』後の4大会はすでに中止が決まっており、ツアー第2戦として予定されているのは、1カ月以上先の『NEC軽井沢72ゴルフトーナメント』(8月14日開幕)となる。それだけに今大会が開催にこぎつけたのは特別なことに思えるのだ。
感染拡大のリスクを最小限に抑えるため、『アース・モンダミンカップ』ではプロアマ、前夜祭の中止を早々と(開催決定よりも早く)決めた。選手、キャディ、関係者全員にPCR検査を実施することも決めた。検査のための約1000万円の追加費用は、JLPGAではなく、主催者のアース製薬がすべてを負担する。これらは大塚の“決断”なしにはできなかったことだ。