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ロナウド「4度目の正直」で初制覇。
EURO2016に刻んだリーダーの素質。
text by
豊福晋Shin Toyofuku
photograph byGetty Images
posted2020/06/22 11:00
EURO初制覇を達成したロナウド(右/2016年)。結果を出すことで引っ張ってきたロナウドだが、この大会では仲間に歩み寄る姿勢が目立った。
フランスを苦しめたポルトガルの堅守。
しかしポルトガルは、ここから驚異の粘りを見せる。エースを失ったポルトガルは後方を固めカウンターに徹した。自陣でボールを奪い、時間をかけずにナニやクアレスマ、ジョアン・マリオがカウンターを仕掛けた。
エースを早々に失ったことで、ゲームプランは狂った。しかしその一方で手にした開き直り。やることは明確になり、人数をかけた堅い守備はフランスを苦しめた。フランスはシッソコのダイナミックな攻め上がりから好機を作るも、ペペとウィリアム・カルバーリョを中心に、要所を押さえるポルトガルを前に、グリエスマンやパイエ、ポグバらタレントの影は霞んだ。決定的な場面は、ジニャクのシュートがポストを叩いたシーンくらいだ。延長後半のエデルの一発につなげた忍耐力。決勝でのポルトガルの姿は、今大会の歩みを表してもいた。エースが活躍しなくとも、しぶとく勝ち抜く強さが、このポルトガルにはあったのだ。
ロナウドが活躍しなければポルトガルは勝てない――。ポルトガルは長い事そう言われ続けてきた。しかし大会を戦う中で、エースが活躍しなくとも勝ち抜くことができる、そんなチームに彼らは変貌していた。
疲弊したエース、訪れた幸運。
大会前、ロナウドのコンディションは、全くと言っていいほど整っていなかった。
ロナウドはレアル・マドリーで今季リーグ戦に36試合出場し、3183分間プレーしている。さらにはチャンピオンズリーグ決勝に進出したこともあり、疲労は蓄積していた。
不調のロナウドに批判も浴びせられた。初戦のアイスランド戦では全くいいところを見せられず、第2戦のオーストリア戦では、あろうことか貴重なPKを外した。得点の気配すら感じられない。うつむくロナウドを見たファンの多くが、ポルトガルの先は長くないと悲観した。
ポルトガルは1試合も勝つことがないまま、3引き分けでグループリーグ3位となり決勝トーナメントへと進むことになる。しかしこれが結果的に幸運を呼ぶ。仮に第3戦のハンガリーに勝っていれば、ポルトガルは2位になっていた可能性もあった。そうなれば、イングランド、フランス、ドイツらと同じトーナメント表の反対側、いわゆる“ダークサイド”(『ABC』紙)に入っていたかもしれない。
「勝てないポルトガル。しかし幸運だけは我々にふりむいてくれた」
『ア・ボラ』紙は不甲斐ないチームのパフォーマンスを嘆くとともに、舞い降りた幸運を皮肉を交えて伝えた。そしてこの小さな幸運を、ポルトガルチームは後にがっちりとつかむことになる。
クロアチア戦では押されながらも最後にクアレスマが決めて勝ち進んだ。続くポーランド戦では、ロナウドが再三決定機を潰すも、PK戦の末に勝利。ポーランド戦後、『レキップ』紙は選手採点でロナウドに最低の「3」をつけるほどだった。エース不調の中でチームは勝ち進み、自信をつけていった。