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ロナウド「4度目の正直」で初制覇。
EURO2016に刻んだリーダーの素質。
text by
豊福晋Shin Toyofuku
photograph byGetty Images
posted2020/06/22 11:00
EURO初制覇を達成したロナウド(右/2016年)。結果を出すことで引っ張ってきたロナウドだが、この大会では仲間に歩み寄る姿勢が目立った。
仲間に歩み寄り始めたロナウド。
今大会のロナウドには、ある変化も見られた。主将として、リーダーとして、チーム全体に気を配る姿勢が明らかに強くなっていたのである。
これまでのロナウドは、結果を出すことで、そのプレーでチームを引っ張ってきた。しかし今大会は、ロナウドの方から選手に歩み寄る姿勢が目立った。
経験の浅い若手選手たちへの気配り、特にレナト・サンチェスへのケアは欠かさなかった。
レナトは今大会途中から先発に抜擢され、大会最高の若手と大きな注目を浴びることになる。これまでロナウドのみに集まっていたカメラのフラッシュは、レナトにも向けられるようになった。18歳の若者は、大会中のブレイクで突然世界の注目を集めることになったのである。
合宿中のある時、ロナウドは代表歴の長いチームのベテランたち、リカルド・カルバーリョやジョアン・モウチーニョ、ナニらを呼んでこう言ったという。
「レナトの重圧を少しでも取り除くために俺たちがやらなければ」
ミスをしても、不満を表すのではなく。
チームとして、この18歳をケアすること。レナトが初先発した準々決勝のポーランド戦、印象的なシーンがあった。
レナトが右サイドからロナウドにクロスを送った場面、ボールは全く合わずに、左へと抜けていく。ゴールへの強烈な意欲を見せるロナウドは、パスに関しては強い要求をすることが多い。しかしミスをしたレナトに対し、ロナウドは不満を表すのではなく、むしろ手を叩いて彼を鼓舞した。レナトに近づき、話しかける場面も多かった。
レナトはこの試合から先発に定着し、物怖じせずに生き生きとしたプレーを見せる。ポーランドとのPK戦でも、自ら2番手のキッカーを望んだほどだ。ちなみにこのPK戦前、ロナウドは前回のEURO2012のスペイン戦でPKを外した苦い記憶からキッカーを辞退しようとしていたモウチーニョのところへ行って勇気づけたという。
エースの変化は、レナトという伸び盛りの個をチームに溶け込ませ、チームの団結にもつながった。