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日本を熱狂させた魂のバトンパス。
リオから東京に繋ぐ37秒60の記憶。 

text by

折山淑美

折山淑美Toshimi Oriyama

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photograph byTaketo Baba/JMPA

posted2020/06/20 18:00

日本を熱狂させた魂のバトンパス。リオから東京に繋ぐ37秒60の記憶。<Number Web> photograph by Taketo Baba/JMPA

銀メダルを獲得した四人は遠く離れたリオデジャネイロの地から日本中を熱狂の渦に巻き込んだ。東京五輪への期待が高まる。

世界を驚かせた、日本の疾走。

 選手もスタッフも攻めの意識を持って臨んだ19日の決勝。山縣は得意のスタートダッシュで飛び出し、1走としては世界トップクラスの10秒2台前半で走った。2走の飯塚は強豪揃いの中で多少巻き返されたが、3走の桐生が外側のレーンのふたりを抜く勢いのある走りをみせてトップの位置でつなぐと、ケンブリッジは「ボルトにバトンをぶつけてしまって少しバランスが崩れた」が、追い上げるアメリカを僅かに抑えてジャマイカに続く2位でゴールした。アメリカは失格となったが、先着した事実は世界歴代3位の37秒60の記録とともに世界を驚かすものだった。

「北京の銅の時は獲れるかどうかギリギリの状況で、選手たちは誰もメダルという言葉を口にできない異様な雰囲気だったが、今回は『やれる』という気持が先行していて緊張感もなかった。本当に狙って獲ったという感じのメダルだったと思う」と苅部部長は話す。山縣は「僕は手を伸ばすパスになったが飯塚さんはスピードを一切落とさなかった」という。桐生も「みんなの信頼関係が最高で、練習でもバトンミスはゼロ。それが強みです」と胸を張る。

自分たちを信じきった証のメダル。

 全員の間に「絶対に渡してくれる」「絶対に渡す」という信頼感があったからこそ、自分たちを信じきれていたのだ。

 だがこの結果はゴールではなくスタートでもある。「銀の次は金しかない」と、彼らは自ら高いハードルを掲げた。

 日本男子短距離の世界への長い挑戦の歴史に、もう1枚の新しいページを記す戦いへの決意だ。

(Sports Graphic Number 9/9特別増刊号 [アジア新で銀メダル]山縣亮太/飯塚翔太/桐生祥秀/ケンブリッジ飛鳥「歴史を変えた魂のバトンパス」より)

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