オリンピックへの道BACK NUMBER
日本発祥のケイリン、いざ復権へ。
金メダル請負人が求めた個の覚悟。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2020/06/07 19:00
2016年10月に招聘されたフランス人のブノワ・ベトゥ短距離ヘッドコーチ(上)。
トラック短距離で戦える選手の育成を主眼に。
その中で、競輪学校とサイクルスポーツセンターを拠点に強化育成体制を整えること、とりわけトラック短距離で戦える選手の育成を主眼とすることが明らかになった。
さらに、ナショナルチームの短距離のヘッドコーチにブノワ・ベトゥ氏が就任することも明らかにされた。フランス、ロシアなどで指導にあたったほか、リオまで中国で指導し、女子チームスプリントで金メダルを獲得させるなど手腕には定評がある指導者だった。
氏はすぐさま、改革に手をつけた。
1つには練習方法。もともと競輪は、ハードな練習を積むこと、何時間でも乗り込むのが主流だった。だがケイリンは瞬発力がものを言うという観点から、そのスタイルに意味はないとし、練習時間をコンパクトにした。
一方で走行中のペダルの回転数など細かくデータをとりフィードバックし、コース取りなども含めきめ細やかに指導にあたった。
選手に「覚悟」を求めた。
さらに選手に「覚悟」を求めた。
自身が指導の拠点とする伊豆に移り住むことを求めたのである。練習を指導する時間を増やすためだった。
それは収入の糧である競輪への出場回数が極端に少なくなることを意味していた。実際、4分の1の出場となり、収入を大きく減らす選手もいる。
それでも受け入れた選手たちは、オリンピックにおけるケイリンに懸ける決意を、あるいは自身の目指す種目に対する決意を固めたと言ってよかった。
また、競輪には「ライン」がある。選手同士が連携しつつ勝利を目指すものだ。でもケイリンでは禁止されている。そのため、より強い個を確立するよう促しもした。
そうした改革の成果は、徐々に現れていった。
2019-2020シーズンのトラックワールドカップ第1~第6戦において金メダル4つを含む計11個のメダルを得た。男子ケイリンの国別ランキングで1位を獲得するなど日本の復活が印象付けられた。