サッカー日本代表PRESSBACK NUMBER
トルシエJ、川口と楢崎の序列って?
名守護神バツが語る伝説のGK合宿。
text by
フローラン・ダバディFlorent Dabadie
photograph byKyodo News
posted2020/06/05 11:30
サッカー日本代表候補の合宿で指導する元フランス代表GKのジョエル・バツ氏。川口や曽ヶ端らを熱血指導した。
GKのヒエラルキーの確認を託され。
バツ氏招聘においては何よりタイミングが良かったのです。バツはパリ在住で日仏サッカーのコンサルタント・通訳を務める茂木哲也氏と一緒に飛行機に乗り、すぐにやってきました。10人ものGKを招集した日本代表候補の合宿地は、静岡県御殿場市でした。
「初来日でしたが、長い旅の末に成田空港について電車に乗り、東京(駅)で乗り換え、新幹線に乗り、駅(新富士)からまた1時間車に乗って御殿場についたら、ほとんど24時間の旅になっていました。チェックインして、温泉に入って、翌朝は富士山が見えました。感動的でしたね」と20年前のことを鮮明に思い出すバツ氏。
しかし、初日にトルシエ監督から明かされたミッションは、「バカンス」とは言い難い内容でした。
「フィリップには、自分で出来なかったGKのヒエラルキーの再確認を頼まれた。実際にGKコーチとして、10人の日本人GK(本並健治、小島伸幸、岡中勇人、下川健一、高桑大二朗、川口能活、下田崇、楢崎正剛、曽ヶ端準、南雄太)に1週間に渡って刺激的な練習項目を与え、夜は日本人GKコーチたちと反省会を続けた」
トルシエ監督ならではのフル稼働な1週間。
しかし、タフで知られているバツ氏、まったく動じませんでした。
当時のJリーグには海外で活躍する日本人GKはゼロ。Jリーグの中にも、若き日本人GKたちが参考にできるような世界的なGKはいませんでした。バツ氏曰く「憧れのGKを真似する機会がないからか、10人とも技術はしっかりしていたけれど、個性はイマイチ足りませんでした。どのGKにもロールモデルが必要です」。
腹の前に置いたボールを突然……。
最初の朝練、富士山がまだ現れていない夜明け前にバツ氏は川口選手を呼んで、ピッチの上に横になるように指示すると、腹の前に置いたボールを突然スパイクで蹴り始めました。歯を食いしばり、衝撃を全身で吸収する川口選手の歪む表情を見て、日本人GKコーチのみんなは驚きを隠せませんでした。
「大丈夫ですよ。腹筋を強張らせれば、全然痛くはないですから(笑)。試合中に何度も起こりうる局面でしょう。収まってないボールはすぐ敵チームのストライカーに狙われます」
フランスでは「哲学者」のニックネームを持つバツ氏。日本文化に置き換えて意訳すれば、『ドラゴンボール』の亀仙人のようなイメージです。風変わりな部分はあるけれど、彼曰く、それこそGKという人種の真髄なのです。
「プロ選手を教えるGKコーチにとって、一番大事なのは技術を教えることではありません。試合と同じシチュエーションをいかに再現できるかが大事なのです。試合中にGKの出番は少ないので、練習は量より質、練習項目の意味付けが重要です。それに、映画俳優のようなアプローチも必要。GKというポジションは海洋冒険家のように強い孤独を感じますから、生き残るために自分のキャラ作りが欠かせない」