サッカー日本代表PRESSBACK NUMBER
トルシエJ、川口と楢崎の序列って?
名守護神バツが語る伝説のGK合宿。
text by
フローラン・ダバディFlorent Dabadie
photograph byKyodo News
posted2020/06/05 11:30
サッカー日本代表候補の合宿で指導する元フランス代表GKのジョエル・バツ氏。川口や曽ヶ端らを熱血指導した。
川口と楢崎、どちらをNo.1に?
危機感を常に抱いていたあのトルシエ監督さえ、バツ氏には全面的な信頼を置き、遠くから彼のGK練習を見守っていました。
しかし初日の夜に、1つの悩みを明かしています。当時、トルシエさんは川口選手と楢崎選手のどちらをナンバー1にするか迷っていたのです。最終的に楢崎選手を選んだのはバツ氏だったのでしょうか。私の質問に対して、63歳のバツ氏はやや表情を曇らせました。
「個人情報は今でも公表するつもりはありません。技術的にも、体力的にも、10人のうち、3~4人は同じレベル。そのなかで、ナラとヨシは経験が勝っただけです。ナンバー1なんて、あくまでもGKコーチと監督の主観であり、勘なのです。誰が上、誰が下という話に興味はない。
ただ、正GKは早めに決めなければなりません。スタメン争いはオフシーズンの時だけです。試合を重ねなければフィールドプレーヤーとの連携が取れない。また、GKは絶対的な自信を持たなければなりません。何かを恐れるGKは弱いGKです」
今思えば、私の質問に苛立ちを見せたのではなく、当時のトルシエ監督が最後の最後までGKの競争を生かそうとしたことに対して、完璧主義者のバツ氏はいまだに納得いかないのでしょう。それについて、トルシエ監督にも聞きました。
「'01年にバツ氏に日本代表GKコーチの顧問役をオファーしました。しかし、彼はリヨンの契約更新の時期だったので断ってきた。だから、ベルナール・ラマに頼んだんだ」
自らが教え込んだラマの手腕。
バツ氏は一体、誰を正GKに選んでいたのでしょうか。川口選手だったのでしょうか。しかし、01年に行った日本代表の欧州遠征(セネガル戦)に合流したフランス・サッカー史上最強のGKベルナール・ラマは、GKのヒエラルキーをここで白紙に戻しました。
そのためトルシエ監督も、楢崎選手と川口選手も混乱してしまったのかもしれません。
もっとも、聡明でフェアな人間であるバツ氏はベルナール・ラマの腕に懐疑は一切見せません。
「ベルナールは一番最初に指導したGKです。'90年代前半、世界でも敵知らずでした。キーパーグローブなしで練習して自分の手の感覚を確かめたり、センタリングをほとんどパンチせずにキャッチに行く強烈な存在感を放つGKでした。プロ意識も極めて高く、ウォームアップもクールダウンも模範的にこなしていましたね」