“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
J1湘南MF松田天馬の顔つきが違う。
転機はルヴァン決勝の、あの交代。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2020/05/31 11:40
昨季ベルマーレの中核を担った松田天馬。今季の開幕戦は怪我でベンチ外となったが、再開に向けて準備を進めている。
顔つきが変わった2019年。
1年目のシーズン終盤にようやく目が覚めた。ルヴァンカップ決勝以降、松田に出番はやってこなかったが、彼の反骨心に燃え盛る炎が宿っていた。
「まずは周りの信頼を勝ち取らないといけない。そう思った時に、そもそも自分がなぜベルマーレを選んだのか考えたんです。僕は背も小さいし、別に突出したものを持っているわけではない。でも、チームの特徴に合わせられるのが、自分の長所だと思っていたし、ベルマーレのように一見、自分のスタイルには合わないようなチームで適応することができれば、絶対に成長できると思ったんです。ピッチ上での熱量や守備面でのハードワーク、球際の強さの部分は自分が持っていないものだったからこそ、ここならそれも鍛えられると思った。2年目はその気持ちを大切にしようと、スッキリした状態で臨めたんです」
顔つきが変わった。プロサッカー選手としての階段を登った彼は、冒頭で触れた通り、ブレイクの時を迎え、そして湘南の柱となった。
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ボランチとして、2シャドーと連動して高い位置からハイプレスをかける。たとえそのプレスをかわされても、瞬時に帰陣体勢に入り、今度はCBと連動してボールを奪う。そして一気に前線までスプリントし、攻撃に関与する。時にはDFラインまで下がってスペースを埋めることだってある。
ポジションをトップ下に上げても攻守におけるプレー強度はさらに高まった。ボランチへのカバーの質が上がり、ボールを刈り取ってから攻撃の起点にもなった。
湘南におけるボランチの役割。
「大学でもボランチをやっていたのですが、その時はボールにガツガツいくことは少なく、どちらかというと中盤の底からゲームを組み立てる役割の方が重要だった。ベルマーレでボランチをやりながら、『俺って意外と守備がいけるんだな』と新たな発見というか、苦手だと思っていたのに普通にやれました。曹さんはそれを見越して僕をボランチとして使ってくれたのかなと思うと、凄く自信に変わっていきました。
同時にベルマーレにおいてボランチのポジションは相当重要だなと思いましたね。プレスが剥がされたら終わりだし、自陣のビルドアップで奪われたら終わり。そこの責任感はこれまでと違います。ボランチの選手の大変さが身をもって分かったので、トップ下を任された時も『少しでもボランチを助けよう』という気持ちでプレーすると、自然とスプリント回数やプレー強度が上がりますし、その上でゴールを目指すメンタリティーは推進力につながる。プレーの強弱の付け方も整理されてきました。自分で判断できることが増えたことで、メンタル的にも楽になるし、プレーの選択肢も増えました」
2年という時を経て、湘南のサッカーを体現する男となった。もう、あの頃の不安そうな表情はピッチにない。精悍な顔つきは、これまで自分と向き合いながら積み重ねてきた葛藤とその先の光の上で成り立っていた。