“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
J1湘南MF松田天馬の顔つきが違う。
転機はルヴァン決勝の、あの交代。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2020/05/31 11:40
昨季ベルマーレの中核を担った松田天馬。今季の開幕戦は怪我でベンチ外となったが、再開に向けて準備を進めている。
「自分勝手」に見えたプロ1年目。
昨季の松田は、豊富な運動量とスプリント力、攻守での強度の高いプレーで、ボランチとして17試合、トップ下として11試合に先発出場した。リーグ終盤には攻守をリンクさせ、決定的な仕事をも果たし、チームにとって必要不可欠な存在となっていった。
筆者はこのブレイクの予兆を、実はこのシーズンスタート時から感じていた。
彼のことは東福岡高校1年時から見てきた。当時から高い技術に舌を巻いたが、あどけなさが残る幼い顔つきながら、飄々とプレーするタイプの選手だった。鹿屋体育大を経て、2018年に加入した湘南では、曹貴裁監督のインテンシティーの高いサッカーの中で走力こそ増したが、それでも周りと比べて激しさの部分では物足りず、厳しい言い方をすれば、持ち前の技術で「ごまかしている」ように感じた。
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それが昨季からは気迫を前面に出し、鬼気迫る表情でボールに喰らいついていく、実に湘南らしい選手に様変わりしたのだ。そんな印象を本人にぶつけると、素直にこう打ち明けた。
「1年目は個人として持っているプレースタイルがあって、『自分はこうだから』と固執してしまっている部分が正直ありました。ここで自分を出そうとしすぎて、周りから強く指摘されても、それを崩せない自分がいた」
攻守の切り替えが早く、連続したスプリントが求められる湘南のタフなサッカーにおいて、「自分はタメを作ったり、プレーのリズムの強弱をつける存在になるべきだ」という考えがあった。それがチームとマッチせずに空回りをし、自分だけが取り残されてしまった。それが周りから見れば「自分勝手にプレーをしている」ように映ってしまっていたのだった。彼はさらに続ける。
実は、ちょっとびびっていた。
「それでも湘南が僕にオファーを出してくれたのは、このサッカーの中で僕が役に立つと評価をしてくれたということだし、実際に曹さんは試合に使ってくれていたので、やっぱり期待してくれているんだと。それにこのサッカーの中で自分の持ち味を出していかないとこの先、プロとして生き残っていけないと思ったので……。
ただ、自分を出そうというのは実は建前で、裏では『チームに迷惑をかけないためにはどうしたらいいか?』を常に考えていました。大袈裟に言えば、ちょっとびびっていたところもあったと思います」
この言葉を聞いて、正直驚いた。どちらかというとエゴが強く、自分を前面に出そうとしたことで苦労したのだと思ったが、その逆。決して「自分さえ良ければいい」という傲慢な考えでプレーしていたわけではなかったのだ。その裏には大きな葛藤があった。