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ラグビーにおける「ロック」の特権。
大野均の去り際に、胸の奥で敬意を。

posted2020/05/27 18:00

 
ラグビーにおける「ロック」の特権。大野均の去り際に、胸の奥で敬意を。<Number Web> photograph by AFLO SPORT

大野均にとって最後の代表戦となった2016年スコットランド戦。献身的なプレーで日本ラグビーの発展に大きく貢献した。

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藤島大

藤島大Dai Fujishima

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AFLO SPORT

 そこに暮らす老若男女は4600人ほど。3年前の8月、ニュージーランド北島のそのテ・クイティという小さな町で営まれた葬儀の進行がまさに分刻みで全国、いや世界に向けて報じられた。新聞のオンラインで刻々と更新されるのだ。

 ラグビーの枠を超える同国の英雄、コリン・ミーズのとむらいだった。享年81。かつてオールブラックスのキャプテンを務めた。羊を両脇に抱えて自分の牧場をランニングするらしい。骨が折れたまま試合を続けたらしい。民間伝承みたいな逸話とともに敬われ親しまれた。

 背番号はおもに5。こんな選手だった。

「コリン・ミーズ、巨大な酪農家、手にしたボールはまるでオレンジの種だ」

 ラグビー実況のオールタイムベスト、BBC放送のビル・マクラレンのスコットランドなまりの名調子である。

 身長は192cm、体重が102kgと記録に残る。いまなら大きくはない。しかし、いまでもコリン・ミーズは格別な巨人と評される。

 なぜ? たくましい骨格で素早く動けたから。いつでも黒いジャージィに真っ赤な闘争心をたたえていたから。男は黙って血を流したから。故郷を離れず羊の世話をよくしたから。それだけではない。コリン・ミーズがロックだからだ。

痛みを喜びに変換できるポジション。

 フォワードの第2列。古典的にはセカンドローと呼ばれる。

「強靭で、背が高くて、ハードな男だけがロックになれる」(『THE ENCYCLOPEDIA OF WORLD RUGBY』1991年)

 そういう持ち場だ。

 スクラムを引き締めては押す。ラインアウトやキックオフで跳ぶ。相手がモールを組んできたら、真ん中をクロール泳法で割り進み、ボールをかっさらう。球を持てば全身を重機としながら防御の壁をひたすら壊す。痛い。もうひとつ痛い。そいつを深い喜びに変換できる人間の特権的なポジションである。

【次ページ】 水を運ぶ男、大野均はロックだった。

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