熱狂とカオス!魅惑の南米直送便BACK NUMBER
増田明美を救ったブラジル名伯楽が
説く、日本特有の悲壮感からの脱皮。
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byShinichi Yamada/AFLO
posted2020/05/20 19:00
ロサンゼルス五輪前に苦悩の時を過ごした増田明美。オリベイラ氏との出会いが彼女のスタンスを変えたのは間違いない。
「当時、アケミはいつも……」
その後、オリベイラ氏はアメリカ各地、母国ブラジル、サウジアラビアなどで指導を続け、教え子たちに五輪と世界選手権で合計2つの金メダル、2つの銀メダル、4つの銅メダルを取らせている。そして現在は、カタールの陸上競技ナショナルチームの中・長距離走部門の責任者を務める。
陸上競技の国際大会に欠かさず参加し、日本メディアの仕事で現地へ赴いた増田さんと会うと、旧交を温めているという。
オリベイラ氏は、かつて増田さんへ贈った言葉の意味をこう解説する。
「当時、アケミはいつも悲壮な顔をしていた。見ていて痛々しかった。そんな顔で練習や試合をしても、持てる力の半分も出せない。
彼女も、子供の頃、純粋に走ることが楽しくて陸上競技を始めたはず。その頃の気持ちを思い出してもらいたかった。
大人になって、陸上競技に自分の人生を懸けるようになってからも、常に幸せを、喜びを感じていてほしい。そして、そのことがひいては良い結果をもたらしてくれることを理解してほしかった」
心が折れて引退する選手が少なくない。
ただし、悲壮感を漂わせて練習し、試合に臨む日本人アスリートはかつての増田さんだけではないと言う。
「私はアケミ以外にも数人の日本人アスリートを指導している。
彼らの多くは、所属する会社、学校といった組織から大きな期待をかけられ、それに応えようと懸命に努力する。責任感が強いからね。
しかし、アスリートにかけられる期待やプレッシャーがあまりにも大きいと、本人がそれに耐えられなくなり、逆効果となる。そして、不本意な結果が続くと、実際にはまだまだ競技生活を続けられるのに、心が折れて引退してしまうアスリートが少なくない」