ハマ街ダイアリーBACK NUMBER
DeNA「あきらめない野球」の原点。
多村仁志の7点差逆転サヨナラ弾。
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byKyodo News
posted2020/05/10 11:40
2013年5月10日、多村(左から3人目)が逆転サヨナラ3ランを放った。
「いつかベイスターズに戻って」
じつは2011年に日本一になった際、多村は「ここでの自分の仕事は終わったな」と感じていたという。同時に「いつかベイスターズに戻って自分の経験を還元したい」との思いが込み上げていた。多村の脳裏には、かつて12年間過ごすも勝てず、泥沼にはまりもがき苦しむ、愛着あるベイスターズの姿がいつもあった。常勝軍団であるソフトバンクで学び、ときにはカルチャーショックを受けた貴重な体験をチームに伝えたい。そんな折、2011年のオフにDeNA体制になっていた古巣から声がかかった。
「話をもらったときは嬉しかったですよね」と、多村は笑顔を見せた。ただ、球団は資金力に乏しく大減俸を受け入れなければいけなかった。
「それでも構わないと思いましたね。とにかくチームを変えたいという気持ちが強かった」
2013年シーズン、7年ぶりに多村はベイスターズに戻ってきた。
「僕が帰ってきたときチームに残っていたのは金城(龍彦)と新沼(慎二)ぐらいで、あと小池(正晃)も戻ってきていましたね。だから若い選手ばかりで全然違うチームになっていた。いろいろ自分から積極的に話しかけたりしましたし、遠征先でもトレーニングジムに連れていってあげたり、自分のできるかぎりのことはしましたよ」
移籍の際、球団からはレギュラーとしての獲得ではなく、また監督の中畑からも代打がメインだということを伝えられていた。
「中畑さんとはサウナで一緒になることが多くて、よくチームの話をしましたね。アイツをスーパースターにしたいとか。まあ、僕が手伝えることがあったら協力しますよって」
少しずつではあるが、多村の尽力もあってチームは戦う集団へと変わっていった。
9回裏、再び多村に打席が回る。
そして、中畑が就任時から唱えていた“あきらめない野球”の代名詞となった試合において、多村が劇的な一打で決着をつける。
1点差の9回裏、代打の高城俊人と後藤武敏がヒットで出塁し、1アウト一、二塁の場面で多村がバッターボックスに入った。カウント2-2から、西村健太朗が投じた151kmのストレートを逆らうことなく逆方向へ。ボールは大歓声のなかライトスタンドへ吸い込まれていった。ついに7点差を逆転した瞬間だった。
多村にとって初のサヨナラホームランであり、同試合で代打本塁打とサヨナラ本塁打を記録したのは、プロ野球史上5度目のことだ。このシーズン、多村は96試合に出場してOPS.820と活躍し、チーム6年ぶりの最下位脱出に貢献した。