All in the Next ChapterBACK NUMBER
支援を断り、UberEats配達員に。
フェンシング三宅諒の本音に迫った。
text by
田中大貴Daiki Tanaka
photograph byRyo Miyake
posted2020/05/09 11:50
三宅は競技資金のために4月29日から「Uber Eats」配達員アルバイトを始めた。
限られた時間で、どう収入源を作るか。
「競技費用の管理をしてくれている母から春先に連絡が来て、『銀行の預金額を見たら、到底、競技を続けられる金額ではないよ。どうするの?』と言われました。幼い頃から僕のフェンシング人生を支えてくれた母にそんなことを言わせてしまったこと自体が、ショックでした」
日本国内だけではなく、国際大会が多く続くフェンシングの五輪代表をかけたレース。三宅らのトップ選手になると年間の競技費用は300万円、生活費を入れると500万円は必要になってくる。
現状、スポンサーからの収入は無くなった。「Unlim」という寄付を募るギフティングシステムにも加入した。あとはどこで収入源を作るか、時間は限られている中でいったん競技生活を止めて働けるのか……悩んだ。
ただ、フェンシングを続けたい、試合に出たい。
苦しい状況下でも、この想いが常に三宅の頭の中を巡っていた。
「楽しいですよ、フェンシングのためですから」
「新型コロナウイルスの感染拡大という今の状況で、条件で何ができるか。フェンシング人生を続けるためにできることを考えたら、配達員のアルバイトでした。時間の融通も利く、自転車に乗ることで足腰を鍛えるトレーニングにもなる、人との接触や身体の免疫力のことなども考えたら、今すぐにできるのは『Uber Eats』の配達バイトでした」
五輪でメダルを手にすることは国民的に注目を集め、喝さいを浴びる。ましてやフェンシング界初の男子団体メダルの獲得。その後の生活も保障されるのではないかと想像する方も少なくないかと思う。
「僕らはメダルを獲ったから特別になったという感覚はありませんでした。普段は学校の事務員をされている先輩もいました。僕のようにアルバイトすることも当たり前なんです。もともと部活動の延長線上に五輪がある感覚でしたから、今の状況も全く悲観的には捉えていません。楽しいですよ、フェンシングのためですから」