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オリンピック選手の公式服装を作る。
紳士服のAOKIが込めた工夫と祈り。 

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木崎伸也

木崎伸也Shinya Kizaki

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photograph byShinya Kizaki

posted2020/05/15 08:00

オリンピック選手の公式服装を作る。紳士服のAOKIが込めた工夫と祈り。<Number Web> photograph by Shinya Kizaki

本田茂喜さん。

【日本代表選手の公式服装】
オリンピック・パラリンピックの楽しみと言えば、開会式での各国選手団の服装チェックから始まるもの。我らが日本代表はいったいどんな服を身に纏うのか。開催国選手団への供給には、数々の困難があった。

 五輪において、開会式は最も注目度が高まる瞬間の1つだ。特に開催国が纏う服は歴史に永く刻まれる。来年に延期になった東京2020オリンピック・パラリンピックで、日本代表選手団の公式服装(開会式用と式典用)を作製するのは、紳士服で知られるAOKIだ。

 AOKIが初めて五輪に関わったのは、2年前の平昌冬季五輪だった。商品戦略企画室の本田茂喜はこう振り返る。

「弊社の経営課題として、背広の未来はどうあるべきかを考えていた。その1つがスポーツの機能性との融合ではないかと。そこで平昌大会の日本代表選手団の公式服装作製事業に応募しました」

 当初、社内のチームには、本田とマーケティング本部長の2名しかいなかった。

「2人が変なことをやり始めたぞという感じで、『なぜスーツ屋が五輪をやるの?』と社内でも理解されてなかった。選手たちにヒアリングしながら手探りで始めました」

 AOKIは公募で選ばれ、平昌大会では代表選手団約260人分の式典用服を提供。日本のメダルラッシュで服が大活躍した。

「競技によっては代表決定が直前で、たとえばフィギュアスケートの代表が決まったのが12月末。1月末に結団式があったのでぎりぎりでしたが何とか間に合った。公式服を着た選手たちがメダルをかけているのをテレビで見たときには涙が溢れました」

 ノウハウを生かさない手はない。2019年4月、東京2020大会の代表選手団公式服の公募が始まるとAOKIは名乗りをあげた。本田は「日本らしい縁起の良さを入れよう」と考えた。

「日本にはお守りを胸にしまう方もいますよね。お茶碗や障子に使われる縁起の良い柄を参考にし、白いジャケットに『工字繋ぎ』を陰影でプリント。ネクタイとスカーフに『七宝柄』や『うろこ柄』を用いました」

 丁寧な作りとコンセプトが評価され、AOKIは激戦を勝ち抜き公募に勝利した。しかし、祝杯をあげる余裕はなかった。

「今回は空前絶後の規模だからです。五輪とパラリンピック両方の日本代表選手団に同一デザインの服を提供するのは今回が初。種目も多く体型もバラバラなので、競技ごとに体型を調べたり、車いす利用社員へのヒアリング等をもとに仕様変更も行いました。さらに競技ごとに代表決定の時期が異なるので、候補も含めると作製想定1600人よりもはるかに多い人数の採寸をする必要がある。各店舗から優秀なスタイリストを採寸フィッターとして選抜し、徹底的に練習しました。その結果、1人当たり平均7、8分で採寸できるようになりました」

10年後、20年後に劣化しないものを。

 そして最大の難題は、1964年東京五輪へのオマージュにあった。

「関係者から『1964年大会の公式服を今も大切に持っている選手がいる』と聞かされました。『そういう思いを尊重して数十年後も輝きを失わない物にしてほしい』と。ストレッチを優先してゴム素材を使ったら劣化で持たない。夏なので通気性も不可欠。機能面でも大挑戦です」

 一切合成の素材を使わず、式典用は麻100%にすることを決断。麻は肌触りが良い分伸びないというデメリットがあるが、ニット地に編む高度な技術で伸縮性を持たせた。ボタンの色にもこだわった。

「ボタンは金色。ただ10年、20年後にどうしても変色してしまう。そのときに味わいのある金になるようにしたい。下町のメッキ工場に相談し特別に作ってもらいました」

 大会延期は代表選考に大きく影響し、AOKIの計画にも修正が迫られている。ただ、それでもやることは変わらない。

「延期に伴い、新しい課題はあれど、日本代表選手団の皆様に快適にお召しいただけるよう今後とも力を尽くしてまいります」

 白いジャケットと赤いパンツを纏った選手たちが開会式で姿を現したとき、本田はきっと祝杯をあげているに違いない。

本田茂喜ほんだしげき

1962年7月1日、東京都生まれ。高校卒業後、東京モード学園で服飾とデザインを4年間学ぶ。デザイナーとして、レディースアパレルに約2年、メンズアパレルに約7年勤務。マスマーケティングに興味を持ち、大手紳士服専門店チェーンのAOKIに入社。基幹となる新ブランドの企画開発を行い、マーケット創造に努めてきた。'18年平昌五輪、'20年ユース五輪の公式服装を手掛け、現在は東京2020の公式服装作製事業を担当。AOKIは東京2020のビジネス&フォーマルウェアのサポーター企業も務める。

<創刊40周年記念特集>日本サッカー希望の1ゴール

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