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白樺学園、鶴岡東、健大高崎。
3校が複数投手性を選んだ契機。 

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田口元義

田口元義Genki Taguchi

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posted2020/05/11 07:00

白樺学園、鶴岡東、健大高崎。3校が複数投手性を選んだ契機。<Number Web> photograph by Sports Graphic Number

左から白樺学園の戸出直樹監督、鶴岡東の佐藤俊監督、健大高崎の青柳博文監督。

1人の奮闘が複数投手の重要性を物語る。

 予選をひとりで投げ抜いた渡辺の球数は、700球に迫ろうとしていた。この時、佐藤は結果的にエースに依存せざるを得なくなった事実を憂い、今後への危惧を認識したという。

「渡辺はその後も怪我をせず、プロの世界(2012年に育成枠で巨人入団)に進むくらいレベルアップしてくれました。それでも、あの夏の彼の頑張りによって、複数投手の重要性を強く感じました」

 翌年の夏、鶴岡東は佐藤亮太と古市純也の2枚看板を擁し、30年ぶりの甲子園切符を掴んだ。佐藤が監督となって4度目の出場となった昨夏は、2回戦でセンバツ準優勝校の習志野を撃破するなどインパクトを与えた。この年も、エース・池田康平と背番号11の影山雄貴の左腕両輪が出色のパフォーマンスを披露し、チームを支えた。

 佐藤は断言するように、こうアンケートに答えてくれている。

「ひとりの投手に依存せず、投げられる選手全員で戦いたいと考えています」

健大高崎「機動破壊」の裏に。

 健大高崎は、絶対的に信頼できるエースを育てたことによって、光と影を見たチームだ。

 白樺学園と鶴岡東同様、指揮官の青柳博文も教訓となった事例を胸に刻む。自らの理念を強調するように、アンケートには真っ先にこう回答していた。

「故障させない育成、投げ込み禁止、投球数の管理。そのためのトレーニングを重視」

 きっかけは2012年。左腕エース・三木敬太の存在があった。

 初出場のセンバツで4試合中3試合に完投してベスト4。春の関東大会でも初出場初優勝の原動力となった。出塁すれば積極的に盗塁を仕掛ける「機動破壊」で話題をさらったチームではあったが、三木の好投なくしてこの結果は得られなかった。

 そのエースが、本番の夏を目前にして生命線である左肩を負傷した。結果、群馬県大会では4回戦でコールド負け。機動破壊だけでは勝ちきれない。野球は投手が軸であることを、改めて教えてくれた試合となった。

 現在の青柳は、試合での選手の球数や疲労度合いを考慮しながら分業制を採用しているが、投手育成に関しては「先発完投型」に軸足を置いているという。

 だからこそ、ケアには一層、気を配る。

 トレーニングはウエートや初動負荷といった、故障しづらい体を作るメニューを主に取り入れる。実戦では、練習試合での連投は原則禁止。1試合あたりの球数は100球が目安で、登板後2日間はノースロー調整を徹底させる。公式戦も可能な限りこの方針に則り、投手は年2回、かかりつけの病院でメディカルチェックが義務付けられている。

 青柳は苦い過去と向き合うように、真摯にアンケートに応じてくれた。

「2012年に負けた試合を教訓に、投手育成方針を改善できたからこそ、今があります」

【次ページ】 後悔なき前進などあり得ない。

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