Overseas ReportBACK NUMBER
非常事態はドーピング検査もZoom!?
アメリカ発の新しい手法に期待。
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byAFLO
posted2020/05/06 11:40
勝利が大金と名誉をもたらす限り、スポーツとドーピングのいたちごっこが終わることはないのかもしれない。
「ずるをする可能性はないの?」
ちなみに同機関は2008年にも同じ名前のプロジェクトを行っていた。北京五輪のメダル候補の選手たちから定期的に尿と血液を採取し、新たな分析、解析方法を探っていた。その手法は、現在多くの違反者を見つける『生体パスポート』の礎になっている。
2008年の検査では、選手が検査場所まで赴かなければならず、心身ともに負担が大きかった。しかし今回は、自宅で検査ができるため、協力している選手の負担は前回と比べると少ない。
通常であれば検査員が検査キットを持参し、尿や血液を採取するが、今回導入された新たな検査では、宅配で届いたキットを使って、選手たちは自分で尿と血液を採取し、検体を検査機関に送り返す、という仕組みだ。
「検査員がいないのにどうやって採取するの? ずるをする可能性はないの?」
抜き打ち検査を受けたことがあるアスリートは、こんな疑問が浮かぶのではないだろうか。
テレビ電話機能で選手と検査員がやり取り。
まず、検査キットを受け取った選手は、検査員からの電話連絡を待つ。通常の抜き打ち検査と同じで、検査員は選手が指定した時間に電話する。
ここからの流れがとても興味深い。
1)選手はPCや携帯電話のズームやFaceTimeなどの機能を使って、トイレの中を検査員に見せる。これはトイレの中に他の人がいないかを確認するため。
2)その後、PCもしくは携帯をトイレが見える場所に置いたまま、検査キットを持ってトイレに入る。
通常は検査員がトイレまで入って採取の現場に立ち会うけれど、オンライン検査ではセキュリティやプライバシーの問題もあるので、撮影はしない。例えばテレビ電話機能のアカウントがハッキングされて、トイレで用を足している場面が世間に出回ったりしたら、とんでもないことになるからだ。
3)トイレから出たら、付属の温度計で採取した尿の温度を計って、画面の向こうにいる検査員に見せる。
「なぜ、尿の温度を計るの?」と思われる人もいるだろう。
これは検体のすり替えを防ぎ、その場で採取した検体かどうかを確認するためだ。
ドーピングをしている選手がいた場合、あらかじめ『クリーンな日』の尿を採取し、トイレの中でキットにいれる可能性もあるからだ。
しかし、事前に尿を採取していたら、保温機能のある機械などで保存していない限り、尿の温度は室温まで下がっているはずだ。
さすがに今回、プロジェクトに参加している選手たちの中に尿のすり替えをするような選手が居るとは思えないが、オンライン検査の可能性、確実性を試す上では欠かせないステップだ。
4)キット内にある短い針を腕に刺して血液を採取し、ケースに入れる。これはドライブラッド(Dry Blood)と呼ばれる手法で、今回新たに導入された。
5)尿と血液の献体が入ったケースを箱にいれ、翌日着の宅配便で検査機関に送り返す。
以上が検査の流れだ。