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非常事態はドーピング検査もZoom!?
アメリカ発の新しい手法に期待。
posted2020/05/06 11:40
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph by
AFLO
「ピンポーン!」
ドアを開けると、そこにはドーピング検査員、ではなく、宅配便の配達員がボックスを持って立っている。
ボックスの中身はドーピング検査のキット。送り主は米国反ドーピング機関(通称、USADA)。受け取った選手たちは、このキットを使って、自分でドーピング検査を行う。
「新型コロナウィルスの影響で、ドーピング検査の数が減少している。そのため東京五輪で違反者が増加する可能性がある」
新型コロナウィルスの感染者が増加し、外出や移動の規制が始まると、米国や英国の反ドーピング機関は上記のような懸念を表明していた。
競技会外検査(通称、抜き打ち検査)のために検査員が訪問することができない状況となり、もし訪問してもソーシャルディスタンスの6フィート(約2m)をとるのは難しく、事実上、検査は凍結された状態になった。
そんな中、米国反ドーピング機関が新たに採用したのが、「オンライン抜き打ちドーピング検査」だ。
選ばれたのはメダル候補の15選手。
米国反ドーピング機関は「プロジェクト・ビリーブ2020」というプロジェクトを発足。東京五輪でメダル候補の陸上のノア・ライルズ(ドーハ世界陸上200m金メダル)、アリソン・フェリックス(ロンドン五輪200m金メダル)、ケイティ・レデッキー(水泳、リオ五輪4冠)など、陸上、水泳、自転車などの競技から選ばれた15選手が、任意でこのプロジェクトに協力している。
同機関のトラビス・タイガート会長は「新型コロナウィルスの影響で、ドーピング検査が行えない状況になっている。そのため、来年、東京五輪で活躍した選手たちがもしクリーンでも、『ドーピングしていたのではないか』と疑われる可能性もある。このプロジェクトの目的は、クリーンな選手の潔白を証明するためのもの」と話す。
ドーピング検査は、禁止薬物を使用している選手を見つけるためのもの、と思っている人も多いかもしれない。確かにそれも目的の1つだが、クリーンな選手にとっては、自身がクリーンであることを証明する機会でもある。