スポーツは国境をこえるBACK NUMBER
南スーダンを平和へ導く“スポーツ大会”。
対立する民族が一堂に会し、寝食を共に。
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph byJICA
posted2020/04/16 11:00
勝ったチームは笑顔で踊り喜ぶ。紛争が奪った明るい感情がここで生まれている。
「多民族の友だちがたくさんできたよ」
「私たちは州政府の役人やコーチに、フェアに戦うことや結果よりも平和が大切なことを訴えています。それが理解され、参加者がルールを守るようになりました。人々の価値観が変わりつつあるのです。また大会の参加者は“平和の大使”と認められ、故郷に帰って平和の大切さを伝える役割を担います。彼らが故郷で“ジュバは安全だったよ”、“他の民族の友だちがたくさんできたよ”と伝えるだけでも、ものすごく大きな意味があるはずです」
南スーダンの未来を担う若者たちは、スポーツを通じて戦禍によって傷ついた心を癒しながら、他者を尊重する気持ちや平和の大切さを学んでいる。昨年11月から群馬県前橋市で長期キャンプを行なっている4人のアスリートも、この大会に参加することで代表選手に選ばれた。
平和な社会を築き上げる原動力に。
続けるだけでも大変な大会を、友成は貪欲に進化、発展させようと動いている。
「年に9日間の大会だけで、平和が根づくかと考えたら十分ではありません」
そう考え、業務の傍ら野球指導を始めた。
「私はガーナ、タンザニアで野球を普及させた経験があり、野球を始めた子どもたちが規律や協調精神を身につけ、成績も目に見えて向上するという成果が出ました。それを南スーダンでもやろうとしています」
友成が訴える野球の精神に同国政府も賛同し、野球ソフトボール連盟が発足。ジュバの青空に球音が響くようになった。
彼は単に、スポーツを普及させようとしているわけではない。思いやりや規律、チームワークといった情操教育の側面も重視しながら、日常のゲームや練習に取り組んでいる。
「野球を通じた若者の育成を、JICAの技術協力として他競技の指導にも応用できるのではないか。その成果が南スーダンをふたたび戦禍に巻き込まない、平和な社会を築き上げる原動力になると信じています」
スポーツを通じた平和促進プロジェクト。JICAならではの活動が、南スーダンの未来を明るく照らそうとしている。
企画協力:国際協力機構(JICA)