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センバツに懸けていた智弁和歌山。
「悲劇のヒーロー」にはならない。 

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米虫紀子

米虫紀子Noriko Yonemushi

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photograph byNoriko Yonemushi

posted2020/04/01 11:50

センバツに懸けていた智弁和歌山。「悲劇のヒーロー」にはならない。<Number Web> photograph by Noriko Yonemushi

センバツ出場が決まった時の智弁和歌山メンバーたち。彼らのやるせなさはいかほどか。

投手と野手の反目を経て。

 新チームは最初、投高打低で例年とは逆のチームバランスだった。投手陣は、昨夏も活躍した小林樹斗、矢田真那斗を中心にレベルが高かったが、打線はまだ迫力不足だった。

 守りにミスが出ると、投手が「打てへんのに守備もできへんのか」と不満をぶつけるなど、投手と野手がバラバラになりかけたこともあった。

 それでも、秋の和歌山大会では、「シートバッティングで野手がピッチャーをボコボコにしたり、逆にやられたり、というのを繰り返しながら、ちょっとずつプラスの方向に行っている」と細川は話していた。

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 秋の近畿大会では、投手陣が力を発揮できず、準々決勝の智弁学園戦では一時6点差をつけられ、コールド負けのピンチに立たされた。その時、打線がピンチを救った。

 粘りに粘って、何度引き離されてもその度に追い上げ、一時は1点差に迫る。結果的に敗れたが、強烈なインパクトを残した。

 秋は1番・センターとして抜群の勝負強さを発揮した細川は、秋季大会後、ショートにコンバート。リードオフマンとして、内野の要として、春にどんな「チーム細川」を見せてくれるのか楽しみにしていた。

1年生4番が夏に直面した壁。

 他にも、秋とは違った姿を見せてくれそうな選手がたくさんいた。その1人が、新2年生の4番・徳丸天晴だ。

 昨年は入学間もない春季大会から1年生で4番を務めた。中谷監督は、「智弁の本当の4番になれる素質、雰囲気はあるけれど、まだ本当の4番にはなっていない」と語っていたが、夏の和歌山大会でも堂々と結果を残した。

 しかし夏の甲子園で壁にぶつかった。3回戦で対戦した星稜のエース、奥川恭伸(ヤクルト)に、徳丸は翻弄された。150キロを超えるストレートに圧倒され、鋭いスライダーにバットが空を切り、3三振を喫し5打数無安打に終わった。

「あの時は、体感したことのない不思議な感覚でした。投げたら150キロが出て、球場もどよめいて……すごいの一言。経験したことのない雰囲気の中で、弱気になった部分がありましたし、ボール球でも何でもかんでもいってしまった。やっぱり頭を使わないと、ただ振ってるだけじゃあダメだなと感じました」

 中谷監督はこう話す。

「中学から入って数カ月で奥川君を打てるような、そこまでの非凡さではなかった。昨年は黒川や西川晋太郎、根来塁、東妻純平(DeNA)といった選手で打線を組めていたからこそ、4番はハッタリでも、どしっと体格のいい徳丸でチームが締まっていたし、夏の予選では予想以上に打ってくれていた。でも甲子園で本物と対戦した時に、自分がまだ本物じゃなかったと気付かされたんじゃないでしょうか」

【次ページ】 エース小林は毎日奥川の映像を見続けた。

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