バスケットボールPRESSBACK NUMBER
YouTubeチャンネルから“革命”を。
Bリーグ川崎が抱く大いなる野望。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byKAWASAKI BRAVE THUNDERS
posted2020/03/16 08:00
「【ガチの神回】プロバスケ選手はどれくらい後ろからシュートが決まるのか検証した結果…」と題された動画のワンシーン。
辻の“天然”キャラが伝わる。
チームメイトが超長距離からのシュートを次々決めたことに興奮した辻は、バスケットボールでよく使われる「ケミストリー」とか「チームワーク」といった単語ではなく、昨年のラグビーW杯の際に市民権を得た「ONE TEAM」というキーワードとともに、仲間たち(と自分のこと)を褒めたたえた。
辻が“天然”キャラであることが伝わる言葉のチョイスと、1回の撮影のなかで何度も同じ「ONE TEAM」を繰り返すしつこさと、コメントを求められたわけでもないのに意気揚々とカメラの前にやってくる前のめりすぎる姿勢と――。
台本もなく、自然と口に出た言葉とともに話題になった動画の再生回数は92万回を超えている。ヒットの基準であるミリオン達成(100万再生超え)も時間の問題だろう。
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見落としてはいけないのは、動画のバランスである。「硬派なドキュメンタリー」と「YouTubeで人気を博す動画」の割合が、1:4〜5ぐらいで作られている。クラブにとってはファンはみな同じように大切な存在であると関係者は口をそろえるが、YouTubeプロジェクトの最優先事項は、新規ファンの獲得だ(他のプロジェクトで既存ファンを最優先に考えられているものもある)。
1万5000人程度収容できるアリーナを建てる。
面白いのは、ドキュメンタリー「OVER TIME」のコメント欄のこんな書き込みだ。
「YouTubeでふざけてるとこしか知らなかったけどじーつーめちゃ上手!」(じーつーとは、辻のチャンネル内での呼称)
川崎がチャンネル制作に力を入れる前までは、彼の知人や友人を除けば99%に近い人が、バスケットボールの上手い選手として辻のことを認識していたはずだ。その常識はもうあてはまらない。
YouTubeチャンネルで新規ファンを獲得して、コアなファンへの道を歩んでもらう。川崎の狙いはそこにあるわけで、このコメントを残したファンの存在ほど、川崎の施策が成功していることを物語る事実はない。
なお、川崎がYouTube戦略にこだわるのは、将来を見すえているからだ。
今季はすでにとどろきアリーナでは1試合平均4710人を集めている。昨シーズンから約27%も増え、千葉ジェッツについでリーグで2番目に多い観客を集めるまでになった。現在、本拠地としているとどろきアリーナのキャパシティーの上限に迫りつつある。
ただ、彼らは2023年までに1万人から1万5000人程度収容できるアリーナを建てることを目標としている。視線を先に向けないといけないのだ。