テニスPRESSBACK NUMBER
車いすテニス全豪優勝の上地結衣。
東京2020へ向けた“建設的破壊”。
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byHiromasa Mano
posted2020/02/23 08:00
デフロートと熾烈な世界No.1争いを繰り広げる上地結衣。全豪オープン優勝でパラリンピックイヤーに勢いをつけた形となった。
リスクがあっても変化を求めた。
こうしたプレーにはリスクが伴う。しかし、デフロートを倒すために、上地と千川理光コーチは変化を求めていた。会心のプレーでドライブボレーを決めたのは一度だけだった。しかし、自分のやりたいプレーだったからこそ、試合後の上地は「よう打ったなと思う」と笑顔で自画自賛した。
昨年秋の全米では、上地の攻撃がより厳しくなった。この大会で披露したのは、「後ろからでもプレッシャーをかけ、自分でチャンスを作る展開」、また「前に入って相手の時間を奪う」プレーだった。
大筋では全豪のデフロート戦で試みた攻撃の延長だが、それを、より積極的に、なおかつ状況判断を磨いてリスクを減らしたうえで行うことが、この時点でのテーマだった。
決勝ではデフロートにこの新しいスタイルで挑んだが、一歩及ばず6-4、1-6、4-6で敗れた。それでも、第1セットを奪い、女王を追い詰めたことで、「効いているのは効いている」と手応えがあった。
「状況判断を身につけるのは時間が」
この大会で印象的な言葉があった。
「私は地味な練習をやり続けることは苦ではない。だから、新しいショットを身につけるほうが簡単。でも、状況判断――今のショットは(積極的に)打つべきかそうではないかという判断を身につけるのは時間がかかる」
消極的にならず、なおかつ無謀なラッシュでもなく。紙一重の正しいラインを探るのは、戦術遂行に長けた上地にしても容易ではなかったのだ。
そもそも、チェスや将棋のように理詰めで戦うのがこれまでの上地。キャリアの中で身につけた戦術眼を大きく転換する必要があった。時間がかかるのは当然だろう。しかし、上地はこの全米の決勝で着実に前に進んだ。
「このスタイルで少しやってみよう」
敗れたとは言え、方向性の正しさに確信を持つ一戦になった。