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香川真司らが頼りにする日本人医師。
怪我の治療方針を決めるのは誰か?
 

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ミムラユウスケ

ミムラユウスケYusuke Mimura

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photograph byJFA/AFLO

posted2020/02/21 11:30

香川真司らが頼りにする日本人医師。怪我の治療方針を決めるのは誰か?<Number Web> photograph by JFA/AFLO

2018年のロシアW杯でも日本代表に同行した池田浩医師。香川真司を筆頭に日本選手からの信頼は厚い。

W杯とクラブの優先度の問題。

<2.W杯期間の考え方>

 日本人選手の多くは、W杯に高いプライオリティを置いている。だからW杯の行われる年やその前年に大きな怪我をしたとしても、W杯の出場を目標としてリハビリに励むケースも多い。大きな怪我であっても、W杯を見据えて手術ではなく保存療法を選ぶ選手もいる。

 その場合、日本の医師は選手との雇用関係があるわけでもないので、いわゆるインフォームドコンセント(医師と患者の間で治療に関する様々な情報を共有したうえで治療方針についての合意を得ること)を経て、患者である選手がW杯のために保存療法を希望すれば、それに沿って治療を進めることになる。

 ただ、選手の給料を支払っているクラブの考えは真逆となる。W杯がある年には、シーズンオフが長く設けられるのが一般的だ。だからこそ選手にはじっくりとリハビリをして欲しいと考えるし、手術をした方が怪我からの復帰がより確実になる可能性が高いのであれば手術をして欲しいと願う。

 W杯をめぐっては、クラブと選手との間で意見と立場の相違が大きいのだ。

語学が堪能でも、医学用語は別。

<3.言葉の問題>

「先生!! 明日に手術って言われましたけど、これは本当に手術だと思いますか? 大丈夫なんでしょうか?」

 日本時間の深夜、ヨーロッパ時間の午後の電話で起こされたのは池田にとって一度や二度のことではない。これはもちろん、日本代表のドクターとしての仕事ではない。そんな電話を受けるのは、1人のアスリートと、患者を救うことを生業とする医師との1対1の信頼関係からだ。

 大きなリスクをともなうような手術ではなく、内視鏡での簡単な手術が行われる際には、手術の判断から実施まで1日もかからないこともある。それは手術のリスクが極端に低いからでもあるのだが、選手は不安を覚える。

 その手術が本当に必要なものなのかどうか、手術をしたことで今後のパフォーマンスに悪影響はないのかどうか。

 だから、彼らは池田に電話をかける。ときにそれが日本時間の深夜だとわかっていても。申し訳なさそうに、でも切実さを伴った声がスマホ越しに眠りから覚めたばかりの池田の耳に響くことになる。

「彼らが不安を抱えるのは当然です。いくら外国語に堪能な選手でも、医学用語は専門用語も多いのでコミュニケーションは難しくなります。それは、選手の通訳をしている方も同じ。サッカーについての話を完璧に通訳できる能力の高い人でも、手術や治療についての話だと、ひとつひとつ辞書を引くようなこともあるくらいです」

 それはリハビリの過程でもそうで、患部がズキズキ痛むのか、響くような痛みがあるのか、軽い痛みがあるだけなのか。サッカー選手の身体に関する感覚は、一般の人のそれよりも繊細だ。その繊細さを母国語以外で表現するのは、相当な語学力を必要とする。

【次ページ】 選手の保有権はクラブが持っている。

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