野球のぼせもんBACK NUMBER
ソフトバンクにまたも育成の星が。
尾形崇斗のストレートと胆力を見よ。
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byKyodo News
posted2020/02/07 11:30
ソフトバンクの分厚い選手層の中でも、尾形崇斗の存在感はずぬけている。この名前、ぜひ覚えておいてほしい。
大ピンチの登板に「よし来た」。
台湾でのウインターリーグの時は、こんな頼もしいことも言っていた。
8回表、1点差に詰め寄られてなお1アウト満塁の大ピンチ。監督は最終回を任せるつもりだった尾形を前倒ししてマウンドに送り出した。
「よし来たと思いました。ファームの試合だと、試合前に登板予定がある程度決められていることが多くて、イニング途中で走者を置いて投げることが少ない。僕は満塁とか絶体絶命の場面で投げたかったんです」
強心臓だ。この場面、最初の打者からきっちり三振を奪い、続く打者は三ゴロに仕留めた。
「苦しい場面だったけど、僕はマイナスのことを一切考えていませんでしたから」
僕ってちょっと昔気質なヤツなんです、と笑い飛ばす。
「たとえば周りと一緒に走っても、他の人より1mでも長く走ろうといつも考えている。たったそれだけの差だから意味はないかもしれない。だけど、僕はそれが何かに繋がると信じているんです」
その意味で、今年1月は良い自主トレに巡り合えた。母校関係者から涌井秀章(楽天)を紹介してもらった。そこには岸孝之(楽天)や益田直也(ロッテ)、唐川侑己(ロッテ)、今井達也(西武)らなかなか豪華な顔ぶれがそろっていた。岸や唐川からアドバイスをもらって新球種の速いスライダーを習得した。春季キャンプでの手ごたえも上々だ。
開幕一軍どころか新人王まで……。
ただ、新しいボール以上の収穫があったとも口にする。
「涌井さんがとにかく走っていました。朝からポール間40本やって、そのあともシャトルランをして。あの人はウエイトをしないので、僕がトレーニングに行っている間は体幹をしたり、また走ったり。最後は宿舎まで3キロくらいランニングで帰っていましたからね。あれほどの選手でもこんなにやるんだと実感しましたし、長く活躍されている方ってやっぱり走っているんだなと思いました。
ホークスだと和田さんもですよね。最近では走り込みは必要ないみたいな風潮もありますけど、下半身の強さってアスリートの基本だと思うんです。僕は走らないとダメだと思います」
自主トレでばっちり準備をしてきた成果は現れた。キャンプ初日の12分間走でチーム断トツの3290mを記録した。工藤監督を「それもいいアピール」としっかり喜ばせた。
こんな選手がプロ野球で大成するんだろうな――ホークス番記者歴19年の経験上、そんな確かな匂いを感じる。支配下登録から開幕一軍……どころか、セットアッパー、そして新人王……。尾形崇斗は、そんな未来予想図を描きたくなるほどの“宝”なのだ。