プロレス写真記者の眼BACK NUMBER
国境を越えたノーロープの世界。
鈴木みのるとモクスリーの奇妙な縁。
text by
原悦生Essei Hara
photograph byEssei Hara
posted2020/02/05 11:30
「キング・オブ・プロレス」「キング・オブ・デスマッチ」は誰か決着をつけるべく戦う鈴木みのるとジョン・モクスリー。
複雑な因縁渦巻くふたりの関係。
なぜ、鈴木がUS王座に挑戦するか?
こじつければ、元US王者のランス・アーチャーは、鈴木軍のメンバーだったからである。アーチャーは米国の「AEW(オール・エリート・レスリング)」のリングで今後は戦うことが決まっているのでリベンジが容易ではない。いわば、これは鈴木による間接的な敵討ち、ということにはなるわけだ。
それでも、このふたり――鈴木とモクスリーの対決にどれほどの関係あるんだ? と思うファンは多いかもしれない。
確かに、たとえ鈴木がモクスリーに勝利しても、その勢いのままに鈴木がAEWのリングに上がれるわけでもない。鈴木がこの後にアメリカで上がるリングは、4月の「GCW(ゲイム・チェインジャー・レスリング)」である。これは、UFCなどでも活躍する総合格闘家のジョシュ・バーネットがプロモートする「ブラッドスポーツ」の3回目の大会も含まれている。昨年、鈴木はその第1回目の大会に参戦し、ノーロープのリングでバーネットと戦っているのだ。その試合、20分と延長の5分を戦ったが結局引き分けに終わっている。
鈴木は4月2日にフロリダのタンパで行われるこのバーネットの大会に出場するわけだが、クリス・ディキンソンという選手がすでに相手として決まっているので、ここで他の選手と絡む可能性は低い。だが……この大会で、ノーロープでKOかギブアップ決着だけのルールによって、モクスリーとバーネットがメインで戦うことになっているのだ。
鈴木とモクスリー。敵であるはずなのにまるで恋人のように、日米を股にかけて何度も交錯し続ける2人の関係は、いったい何と表現すれば良いのだろうか。
米プロレスシーンにまで殴り込みをかける鈴木。
最近の鈴木は、アメリカでの戦いを意識しているように思える。
実際、今ではアメリカの格闘技ファンが鈴木の入場に合わせて日本語で「風になれ!」と声をそろえて叫ぶほどに、その存在感は増してきている。
「オレがこいつ(モクスリー)を一発ぶん殴ればアメリカじゃ大騒ぎだ。
だから……もっと厳しいのオレにくれよ! もっと痛いのオレにくれよ! オレはおまえがオレのことをブン殴りに来るのをずっと待っていたんだからな。
ジョン・モクスリーよ! こんな新日本、見に来ているクソみたいなファンに媚び売って、手なんか振ってるんじゃねえよ。おまえが見るべきなのはこのオレ、鈴木みのるだっ!」(鈴木)
鈴木とは逆に、モクスリーは日本での戦いを強く意識している。
「キング・オブ・プロレスリングとキング・オブ・デスマッチ。呼び方なんかどうでもいい。これは戦争なんだ。もう避けては通れないんだ。
骨が折れようが、ケンが切れようが、脳震盪を起こそうが……すべての問いかけには試合で応えよう! 試合を見てくれ」(モクスリー)