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サイン盗みと球界の「カルチャー」。
テクノロジー濫用は修正されるのか。 

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芝山幹郎

芝山幹郎Mikio Shibayama

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posted2020/01/18 11:40

サイン盗みと球界の「カルチャー」。テクノロジー濫用は修正されるのか。<Number Web> photograph by Getty Images

2017年のワールドシリーズ第6戦、アストロズのダグアウトでA・J・ヒンチ監督(左)に耳打ちをするコーラベンチコーチ(肩書は当時)。

パンドラの箱が開かれた瞬間。

 だがここに至るまでには、もうひとつ前段があった。

 2014年、大リーグは、審判の判定に対するチャレンジを認めると同時に、リプレー・システムの採用を決めた。最初のうち、モニターはクラブハウスに置かれていたが、利便性が考慮され、ダグアウトそばの設置が許されるようになった。パンドラの箱は、この瞬間に開かれたのかもしれない。

 モニターの悪用を思いつくまでには、やや時間がかかっている。正確な時期ははっきりしないが、悪用を最初に思いついたのは、2017年当時、アストロズのベンチコーチだったアレックス・コーラ('18年からレッドソックスの監督。'20年1月14日、解任)と、将来殿堂入りが期待されていた外野手のカルロス・ベルトラン('19年11月にメッツの新監督に就任したが、一度も采配を振ることなく、'20年1月16日に退任が発表された)だといわれる。

語り草となった「ゴミ箱叩き」。

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 ベルトランは、リプレー・モニターに映るホームプレート付近の映像を観察すれば、相手投手の球種を見抜けることに気づいた。コーラは、ダグアウトの電話とリプレー・ルームの電話を直結させ、相手のサインを盗みつづけた。

 のちに語り草となった「ゴミ箱叩き」(変化球なら、バスドラムのような音が鳴る。速球なら音はしない)もこの時期に開発されたようだ。手や胴体に装着したバンデージの下に無線のブザーを忍ばせる手口も使われたのではないかとささやかれているが、これは噂の域を出ない。

 いずれにせよ、似た手口はすぐに広がった。'17年8月18日から20日にかけてボストンで行われた対ヤンキース3連戦ではレッドソックスに疑惑の眼が向けられた。ヤンキースのGMブライアン・キャッシュマンは、コミッショナーに意見書を提出している。連戦を2勝1敗と勝ち越したレッドソックスは、結局この年、ヤンキースに2ゲーム差をつけて地区優勝を果たしたのだった。

 と見てくると、これはやはり、コーラやベルトラン、ルーノウやヒンチといった個人を処罰して能事足れりといえる問題ではないようだ。責任を問われるべきは、むしろ球界の「カルチャー」だろう。

【次ページ】 サイン盗みの根源に関わる要素とは?

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