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サイン盗みと球界の「カルチャー」。
テクノロジー濫用は修正されるのか。
posted2020/01/18 11:40
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph by
Getty Images
アストロズのサイン盗みが、大リーグに激震をもたらしている。波紋は日に日に広がり、大リーグの歴史に汚点を残す事件とさえ見なされつつある。
2020年1月13日、大リーグのコミッショナー、ロブ・マンフレッドは、アストロズのサイン盗みに対して厳罰を科すと発表した。昨年11月中旬から予期されていたこととはいえ、衝撃的な内容だった。
アストロズのGMジェフ・ルーノウと監督のA・J・ヒンチは1年間の職務停止を言い渡された。それを受けた球団オーナーのジム・クレインは、ただちに両者の解任を発表した。
さらにアストロズは500万ドルの罰金(痛くもかゆくもない額だが、MLB機構はこれ以上の罰金を科すことができない)を科され、2020年と21年のドラフト1巡と2巡の指名権を剥奪された(このダメージは大きい。宝の山を引き当てるかもしれないくじさえ、引かせてもらえないのだ。ファームは壊滅的な打撃を受ける)。
ブラックソックス・スキャンダル以来の危機。
私は反射的に思った。
これは、1919年に起きたブラックソックス・スキャンダル以来の危機ではないか。もしかすると、アストロズが獲得した2017年ワールドシリーズの王座が剥奪されるかもしれない。それどころか、2017年シーズンのアストロズの勝ち星すべてが剥奪されるかもしれない。
数日前、このウェブサイトに掲載されたナガオ勝司さんのコラムと重複する部分があるかもしれないが、これまでの経緯を大まかに振り返ってみよう。
処罰の発端は、2017年9月15日、マンフレッドがアストロズに対して警告を発したことだった。警告は、ダグアウトの隣に設置されたリプレー・モニターを覗いてはならないという内容である。GMルーノウは、この警告を無視した。サイン盗みは平然とつづけられ、同年ポストシーズンにも持ち越された。
そしてアストロズは、球団史上初のワールドシリーズ制覇を達成する。シリーズ第7戦で、対戦相手ドジャースの先発ダルビッシュ有が、信じられないほどの乱打乱撃を受けたのは記憶に新しい。