酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
水島新司、佐々木信也、名実況アナ。
ぜひ「野球文化人」にも殿堂を!
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKazuya Akita/AFLO
posted2020/01/20 11:30
『ドカベン』に『あぶさん』……水島新司先生の野球漫画をむさぼるように読み、野球好きになった人も多いだろう。(2007年6月撮影)
天候まで頭に入れた斬新な解説。
しかし4年でプロを引退し、プロ野球解説者となる。当時の解説者は大御所の野球人が大所高所からものをいうスタイルだったが、佐々木は試合前に両軍ベンチで選手や指導者の話を聞き、気象庁に問い合わせて天候も頭に入れて、これまでにない斬新な解説をした。
「ラジオ時代には僕は3分に1回、スコアを伝えました。リスナーが一番知りたい情報ですから」
日本テレビの巨人戦で名をはせたが、『プロ野球ニュース』スタートとともにキャスターに。野球解説には口を挟まず、MCに徹したが、ダンディな容姿でシャープに番組を切り回し、プロ野球中継のイメージを一新させた。佐々木信也の軽快なMCなくして『プロ野球ニュース』は語れない。
間違いなく「昭和野球の顔」だった。
しかしそんな佐々木でも、一度も殿堂入りの候補になっていない。
伝説の実況アナウンサーも数多い。
またアナウンサーにも忘れがたい人がたくさんいる。東京六大学からプロ野球まで軽やかな声で実況したTBSの渡辺謙太郎、NHKでは甲高い声が特徴の土門正夫、丁寧な間合いで聞きやすかった島村俊治。
そして「甲子園は清原のためにあるのかあー!」で有名な、朝日放送の植草貞夫。
アナウンサーではNHKの志村正順だけが野球殿堂入りしているが、後続のマイクロフォンにも素晴らしい人がいたのだ。
思うに、こうした「野球文化人」ともいうべき人たちの票が伸びないのは、特別表彰の選考委員が、野球界の人という面があるだろう。彼らは野球界の内側にいて、メディアがどんな伝え方をしたか、ファンが何を喜んだかをそこまで理解していないのだと思う。
野球界の出来事はよく知っていても、「野球文化」についてはそれほど触れる機会がなかったのではないか。