酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
水島新司、佐々木信也、名実況アナ。
ぜひ「野球文化人」にも殿堂を!
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKazuya Akita/AFLO
posted2020/01/20 11:30
『ドカベン』に『あぶさん』……水島新司先生の野球漫画をむさぼるように読み、野球好きになった人も多いだろう。(2007年6月撮影)
一昨年から水島新司が特別表彰候補。
そのことを考えるとき、筆者は「野球文化人」ともいうべき人をもっと殿堂で顕彰してほしいと思う。
一昨年から『ドカベン』、『あぶさん』などで知られる漫画家の水島新司が特別表彰の候補になっている。
水島が描く野球選手の躍動感は素晴らしかった。筆者が特に好きなのは、グローブやバットなどへのこだわりだ。捕球時のウェブのたわみや、インパクト時のバットのしなりなどは、本当に野球をした人でないと描けないと思った。
「あぶさん」こと景浦安武は1972年から2009年まで38シーズンも現役で、引退時には63歳だった。大阪球場の外野には「あぶさん」の看板があったのを思い出すが、野球ファンからすれば、景浦安武はもはや架空の人物ではなかった。
しかし特別表彰での水島の得票はなかなか伸びない。
宇佐美徹也と佐々木信也の功績は……。
山内以九士の弟子で、やはり「記録の神様」と呼ばれた宇佐美徹也は、私たちに「野球記録の楽しさ」を存分に教えてくれた。
毎年発行された子供向けの『プロ野球全記録』は、実は大人にも十分読み応えのある一冊で、頭からしっぽまで選手の特徴が数字でぎっしり解説されていた。
強打者とだけ思っていた山本浩二が驚異的な守備範囲の外野手であることも、この本で知った。そして『ON記録の世界』は、王貞治、長嶋茂雄という偉大な打者の全打席を網羅した金字塔ともいうべき大著だった。
1984年、阪神の福間納が稲尾和久(西鉄)の持つシーズン登板記録78試合に迫った時のこと。宇佐美は「稲尾と福間では記録の中身が違う」と批評するなど、反骨精神の持ち主だった。宇佐美徹也は2012年に特別表彰の候補になったものの、1票が最多で3年で消えてしまっている。
巨人一辺倒だった昭和のプロ野球人気を、12球団全体に拡げたのは1976年にフジ系列で始まった『プロ野球ニュース』の功績が大きい。
そのメインキャスターだった佐々木信也は、日本のプロ野球のイメージを変えた。
湘南高校時代に夏の甲子園で優勝、慶応大学で六大学のスター選手になり、卒業後は弱小高橋ユニオンズに。1年目で180安打。これは新人としてはいまだに破られていない最多安打記録である。