球体とリズムBACK NUMBER
西野朗率いるタイ、東京五輪なるか。
時間の使い方は未熟も気概はある。
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byKyodo News
posted2020/01/14 11:50
オーストラリア戦に負けたとはいえ、開催国のファンに応える西野監督の表情には手ごたえを感じる。
西野監督は選手の献身を称えたが。
「選手たちは最大限のパフォーマンスを見せてくれたと思います」と試合後の記者会見で西野監督は言った。その場所に居合わせた全員が同感だったと思う。彼らが出し切ったのは誰の目にも明らかだった。最後は燃料がほとんど残っていないように見えたほどに。
序盤は打楽器の重い音と大声援がこだまする本拠地で、開催国の代表が主導権を握った。4-2-3-1の2列目には、17歳で17番を背負うスパナト・ムンターや11番のアーノン・アモンレッサーら、敏捷性とスキルに優れた好タレントが並ぶ。188センチの大型レフトバック、ティタトン・アクソーンシは雰囲気のある攻撃的なSBだ。
24分、ティタトンが左サイドに出たスルーパスに抜け出すと、きつい角度からそのまま豪快に左足を振り抜く。ニアポストに激しく当たったボールを、ボックス内に駆け込んだアーノンが左足で確実に仕留めて先制した。
しかし「試合の流れを読みながら、ゲームコントロールできるタイプの選手がなかなかいない」(西野監督)ホスト国の代表は、フルスロットルのまま残りの前半を駆け抜けようとする。縦パスに食いついてきた敵をワンタッチで剥がしたり、間合いを制して局面を打開したりと、軽快な技術を見せるシーンは多かった。
意気上がる両ゴール裏のホームサポーターはチャントの掛け合いを始め、タンクの残りを気にせずに走り続ける若者たちを後押しした──試合後の今となっては、無邪気に煽ったという表現の方が適切かもしれない。
停滞から一転、オーストラリアの逆襲。
ハーフタイムまで5分を切った頃、それまでことごとくミスキックを晒していた豪州が、右サイドから初めて惜しいクロスを放った。するとその4分後には、レノ・ピスポコのスルーパスにニコラス・ダゴスティーノが反応して、滑り込みながらファーサイドのネットを揺らした。
豪州は後半、10番デニス・ジャンローを中央に投入してパスワークを高め、タイのゴールに迫り始める。ロングスローからのヘディング、カットインからのシュートはGKに阻まれたが、76分に逆転ゴールが生まれた。
左サイドでピスコポが洒脱なループでスルーボールを送り、駆け込んだSBアレックス・ガースバッハが折り返すと、中央でダゴスティーノが詰めて豪州が逆転した。