Number ExBACK NUMBER
“今年の女性100人”選出の今日和。
「相撲は私を幸せにしてくれるもの」
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph byHiromi Ishii
posted2019/12/30 19:00
イギリスBBCの「100 Women」に選ばれた今日和。春からは実業団で相撲を続ける。
今さんを密着したドキュメンタリー。
'19年、イギリス人監督マット・ケイが彼女に迫ったドキュメンタリー短編映画『Little Miss Sumo(原題)』が、マンチェスター国際映画祭で最優秀作品賞を受賞し、話題を呼んだ。わずか19分間の映像の中に彼女の“闘う姿”が収められている。
「みんな“めちゃ良かったよ”と言ってくれますし、自分自身でも、アスリートとして非常にカッコよく描かれているなって思いましたね。あれを見たら、『もう1度世界を獲ろう』と思えますし、『相撲ってこんなにカッコいいんだ』とモチベーションにもつながって。実は大学卒業後は指導に専念しようと考えていたのですが、もう少し競技を続けてみようかなと。そう思えたのはこの短編映画のおかげかもしれません」
霊峰・岩木山と世界自然遺産の白神山地、日本海に囲まれた自然豊かな青森県・鰺ヶ沢町で彼女は生まれ育った。舞の海の故郷としても知られる同町は相撲が盛んな地域で、今さんは小学1年生のときに兄の影響で相撲を始めた。当初は「稽古がつらく、やめたくて仕方なかった」と笑うが、当たり前にあった相撲にどんどんのめり込んでいった。
当時から相撲のセンスは突出していて、土俵上では押し相撲で自分よりも大きな相手を押し出すなど、非凡な才能を見せていた。中学では男子と一緒に練習し技術を磨いた。さすがに高校に上がると男女の実力差は大きく、母校の中学に通って男子選手を相手に練習に励んだそうだ。
ぶつかった相撲の「固定観念」。
中学、高校と全国中学校体育大会や全国高校総体などの全国大会では女子部門が設けられていないため目標設定は難しかった。それでも世界大会の存在を知り、「日本代表になって世界大会に出る」ことを1つの目標に掲げ、相撲道に邁進した。
たが、当時、女子の競技会は少なく、競技人口もわずかだった。
短編映画のなかで大学の男子部員に交じって稽古に励む姿を収めた映像をバックに、今さんは「男子はプロに行きたいとか、比較的簡単に将来と相撲を結びつけて考えることができていて。多分、女子は小学校を卒業したら終わったりとか……」と訴えていた。
厳しい稽古に耐えて、勝って喜び、負けて涙することは男女ともに同じはず。なのに、女性はプロの選手にもなれない。それどころか、社会人で相撲を続ける道でさえも困難な状況だ。彼女が闘っているのは目の前の対戦相手だけではないことを思い知らされる。
相撲は男がやるもの。
今もその固定観念が女子相撲の大きな壁となって立ちはだかっている。