第96回箱根駅伝出場校紹介BACK NUMBER
最強エースの配置に注目の東洋大学。
駒澤大学は黄金ルーキーの躍動に期待。
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箱根駅伝2020取材チームhakone ekiden 2020
photograph byNanae Suzuki / AFLO
posted2019/12/26 11:00
田澤の魅力はただ速いだけではない。
力のある4年生たちも、その実力を認めている。駅伝主将の中村大聖が「あいつは本当に強いです」と目を丸くすれば、2年連続で2区を走っている山下一貴は「『田澤に任せる』と言われれば(2区を)譲ります」と話すほど。
田澤の魅力は、ただ速いだけではない。タイムで測れない強さも持っている。出雲駅伝では國學院大學の浦野雄平(4年)、相澤らの後ろにピタリとつき、ラストスパートで彼らを置き去りにして、首位でたすきをつないだ。「仕掛けるタイミングはセンス」と大八木監督。全日本大学駅伝で4人をごぼう抜きしたときも、駆け引きをしていた。
「抜くときは一気に行く。その瞬間だけスピードをぐんと上げるんです。後ろにつかせないようにしました。誰に教えられたわけではないのですが、これは感覚ですね。1m以上離されると、抜かれる側も気持ち的に無理だな、と思いますから」
駅伝で相手を抜く快感は、何物にも代えがたい。青森山田高時代からレースで特別な指示を受けたことはない。正確に言えば、ほとんど聞いていなかった。
「『感覚でいけ』と言われてきたので、ずっとこんな感じで走っています。だから、変な能力がついたのかもしれません」
学生から戦う姿勢が見えてきた。
いまは大八木監督の指示にきちんと耳を傾けているが、練習では主張している。自らの身体と相談し、疲労が溜っていれば、練習メニューを変えてもらうこともある。
「身体がきついときは、直接伝えにいきます。僕の意見も聞いてくれるので、やりやすいです。練習をやりすぎていないところもいいのかなと。ここで無理をすればケガをするな、とだいたい自分で分かります」
他の部員と比べると、ジョグの距離などは決して多くはない。徹底して走り込んで、結果を残しているわけではない。もちろん、大八木監督が甘やかしているわけではない。田澤の定めた限界値が低ければ、「お前は逃げている」とピシャリと叱責する。本人もそこは分かっている。「できるのにできないと言えば、怒られます」といたずらっぽく笑う。これまでは避けることがあったレース後のポイント練習も「ここでやれば強くなる」と前向きに取り組んでいる。ただ、まだ余裕はあるようだ。初めての大舞台を控えても、気負いはない。
「全日本大学駅伝では監督が乗っている車が後ろに来なかったので、箱根駅伝ではどこかであれを聞きたいですね。大八木監督の『男だろ』。言われれば、火が付くと思います」
やはり大物である。怪物が令和初の箱根路で大暴れしても、大きな驚きはない。