球体とリズムBACK NUMBER
香港の現状&サッカーを知る男。
中村祐人が国籍変更を選んだ理由。
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byGetty Images
posted2019/12/18 07:30
香港のクラブに所属したことでデブライネとのマッチアップも味わった。中村祐人にとって、こんなにも貴重な経験はない。
中国針でコンディション調整も。
「初めてプロになったのが香港で、その後に一度ポルトガル(当時2部のポルティモネンセ)で苦しんでいる時に拾ってくれたのも香港のクラブ。だから僕はここの代表の一員となって、香港に恩返しがしたい。ずっとそう思って、周りに国籍を変えたいと言い続けていました。日本のパスポートは惜しいと思いませんでした。もちろん父にも相談しましたけど、『おー、好きにやったらいい』と言ってくれて」
そうして香港人となり、インドネシア戦に先発したときは「代表の特別な空気を感じた」。しかし残念ながら、その後は監督がギャリー・ホワイト(東京ヴェルディへ。現在は南通支雲)からミクス・パーテライネンに代わったこともあり、再招集の声はかかっておらず、E-1選手権のメンバーからも外れた。
「(落選は)もちろん、面白くないです。今年は自分の価値を証明できていたはずですが、監督が決めることなので仕方ない。自分もまだまだ諦めていないので、また呼ばれるように頑張っていくだけですね」
そう話す中村は今、香港らしい調整法でコンディションを整えているという。ただし、そこには叫んでしまうほどの痛みがあるそうだ。
「試合の3日前に必ずやっているのが、中国式の針。最初は5センチくらいのものを50~60箇所に刺して、それでも張っているところには10センチくらいの針を。それをぐわっと動かした後に、地獄のマッサージ。親子の鍼灸師で、2部屋あるんですけど、いつも別室から悲鳴が聞こえてきます(笑)。半端なく痛いけど、2日後にものすごく軽くなりますね。これも香港ならではでしょうか」
香港は今、少し落ち着いている。
12月中旬の平日、香港の街は以前と同じく、平穏が保たれているように見えた。数日間の滞在で見たかぎり、閉鎖されている道路はなかったし、地下鉄も問題なく走っていた。人通りはやや少なくなったけれど、賑やかな広東語も聞こえてくるし、クラクションは盛大に鳴る。
11月下旬の区議会議員選挙における民主派の圧勝や、アメリカのドナルド・トランプ大統領が香港人権・民主主義法案に署名したことの影響もあるだろうか。
「今は落ち着いていて、練習も試合も通常通りできています。ただ10月くらいからデモがエスカレートした頃は、リーグ戦が何度か中止になり、練習もできない時がありました。本来は安全な街なので、香港らしくないなと感じていました」