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世界で最も代打本塁打を打った男。
高井保弘の思い出と心に残る言葉。
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph byKyodo News
posted2019/12/18 10:30
代打に指名され、ホームランを放つ。その高揚感を世界の誰よりも多く体感したのが高井保弘だった。
「オチアイさんは誰よりも……」
当時は名前のStairsが「階段」を意味する言葉でもあることから、こんなスローガンが入ったTシャツも売り出されている。
「Use Stairs in case of Emergency=緊急事態には(非常)階段を使おう」
ステアーズのいた頃のフィリーズは、元近鉄バファローズのチャーリー・マニエル監督や田口壮外野手(現・オリックスコーチ)がいたこともあり、少しだけ取材する機会があった。もちろん、中日時代のことも話している。
「オチアイさん(落合博満)は今まで見た誰よりもバット・コントロールが巧くて、彼が若い頃に三冠王を獲ったのも何ら不思議じゃないと思ったね。それに当時の日本にはイマナカ(今中慎二)とかヤマモト(山本昌)とかイトー(伊藤智仁)とか、メジャーに来てたら成功しそうなピッチャーが大勢いたのが印象的だった」
いつでも本塁打を狙う人だった。
ステアーズも高井さん同様、若い頃はマイナーでくすぶり続けた選手だった。エクスポズ(現ナショナルズ)時代は19試合に出場しただけで日本に渡り、米球界復帰後は野手史上最多のメジャー通算12チーム(エクスポズとナショナルズの両方でプレーしているので本拠地の数は13)を渡り歩くなど、「Journeyman(旅人)」と呼ばれた。
メジャー通算では先発出場が1338試合、途中出場が557試合。先発で4702打数236本塁打、途中出場では502打数29本塁打とその確率は似通っており、レギュラー争いをした若かりし頃は足も使えたそうで、通算30盗塁を記録している。
そんなステアーズの打撃哲学は「いつでも本塁打を狙って打席に入ること」。
「実際には毎打席というより、ファストボールだろうがブレーキングボール(カーブやスライダー)だろうが、自分のバットが届きそうなところに来た球はすべて、本塁打を狙っている」
スイングはいわゆる「マン振り」。昨今流行りの「フライボール革命」をすでに実践していて、速く鋭いアッパースイングで捉えて遠くへ飛ばすのが特徴だった。