メジャーリーグPRESSBACK NUMBER
世界で最も代打本塁打を打った男。
高井保弘の思い出と心に残る言葉。
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph byKyodo News
posted2019/12/18 10:30
代打に指名され、ホームランを放つ。その高揚感を世界の誰よりも多く体感したのが高井保弘だった。
「ええやん。キミ、ホームラン打てるわ」
ただし、番組の中でお2人に話しかけられたことは何ひとつ覚えておらず(ひとりずつ、すべての子供に丁寧に話しかけてくれたたのは覚えている)、覚えているのは高井さんの前で素振りをした時、心底ビビっていた人から優しい声で「ええやん。キミ、ホームラン打てるわ」と言われたことだった。
不遜なことに、当時はあまり嬉しくなかった。
なぜなら、子供の頃の私は山田久志さんの美しいアンダースローと山口高志さんの剛速球のファンであり、高井さんのファンではなかったからだ。
それは大橋さんや足立さんに対しても失礼なことだが、当時の私はとにかく、『なんで山田さんや山口さん来ないねん?』と失礼極まりない態度だったのだ。
メジャーにもいた代打本塁打男。
当時の出来事に感謝するようになったのは、アメリカに渡ってからだと思う。
2008年、フィリーズ対ドジャースのナショナル・リーグ優勝決定シリーズ第4戦、5-5で迎えた8回2死一塁から、マット・ステアーズという選手が決勝の代打2ラン本塁打を放った。フィリーズは同年のワールドシリーズを制している。
カナダ出身のステアーズは1993年、マイナーでくすぶっていた25歳の時に中日ドラゴンズでプレーしていたことがあり、60試合に出場して打率.250、6本塁打、23打点という成績を残して1年限りで退団した。
翌1994年には米球界に復帰してマイナーリーグからやり直し、1997年からはメジャーに定着。高井さんと同じく途中出場の控え選手として活躍した。
代打で登場してアスレチックス時代に4本、ブルワーズで1本、パイレーツとロイヤルズで2本、タイガースで1本、ブルージェイズで2本、そして、フィリーズでは7本と「代打本塁打」で有名になった。