ミックスゾーンの行間BACK NUMBER
アルベルティーニ化する橋本拳人。
浮き球パスのお手本は大久保嘉人!?
text by
西川結城Yuki Nishikawa
photograph byGetty Images
posted2019/12/14 09:00
2019年、橋本拳人は日本代表に定着した。育成年代から彼を知る人々は、その成長ぶりに誰もが目を細めているはずだ。
「キックの種類もだいぶ増えた」
橋本の成長にはプレーモデルの変化も関係している。かつては守備力を生かしてボールを奪い、その勢いのまま相手ゴール前まで攻め込んでいく、縦横無尽に動くMF像を目指した。
ただ現在は、長谷川監督の意向もあり、中盤中央でどっしりと構え、全体を見る役割になっている。自ずとパスワークの起点になることは多い。受けて、さばく。その反復練習をしていく中で、芽生えてきたタッチダウンパスへのチャレンジ。
「キックの種類はだいぶ増えたと思う。秘訣ですか? いや、もうこれは蹴り込みました。プレーの幅を広げる、その一心でしたね」
嘉人さんのポトリと落とすパス。
誰か、お手本にしている選手はいるのだろうか。アルベルティーニの名前はさすがに出てこないだろうが、欧州で活躍する名ボランチなどの名前を期待した。
橋本は、意外な選手を挙げた。
「誰だろう……嘉人さんかな」
大久保嘉人。
'17年に1シーズンだけFC東京でプレーした。時に彼の厳しい叱咤で、橋本が縦パスを習得していったことは以前も記したことがある。
ただ、それだけにとどまらず、「嘉人さんにはもちろん『浮き球を狙え』と要求されたけど、嘉人さん自身もああいうポトリと落とすパスがうまかった」と参考にしたという。叱られ役になっていただけではない。橋本はきっちり、大久保から盗んでいたのだ。
背筋を伸ばし、顔を上げる。敵に寄せられても、半身の体勢にしてうまく交わし、前を向く。『コモドドラゴン』と言われる、股関節の可動域を広げる奇妙なトレーニングを実践し、NHKなど各局でも取り上げられた。そこではボール奪取に生きたと紹介されたが、可動域の拡大はボールキープ力とプレー姿勢の向上にもつながっている。
そしてキック、浮き球パス。しなやかなフォームでボールを蹴るようになった橋本は、かつての武骨さだけのイメージから脱却しつつある。