“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
選手権最強の初出場・興國高校。
刻み込まれた「テクニックは永遠」。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2019/11/30 11:40
監督就任14年目、興國高校を初の高校選手権出場に導いた内野智章監督。ここ数年は多くのJリーガーを輩出している。
バルセロナのコピーではなく。
信念や理念に意固地になるのではなく、サッカーの「今」を敏感に学び取ることで、自身の指導現場に反映させていく。その中で内野が柔軟性を持って取り組んだのが、「自由と規律のバランスとオーガナイズ」だという。
興國高は年に1度、スペイン遠征を行う。ユニフォームもバルセロナカラーにしたほど「バルセロナスタイル」を色濃く打ち出したイメージがある。だが、決してバルセロナをそのままコピーしているわけではない。
サッカーはあくまでも相手がいるスポーツ。いくら足元の技術だけを磨いても、変化する局面、状況の中で有効な選択をできない限り、生かすことはできない。そのためにはある程度の秩序と規律を掲げながら、そこから派生する自由を活用するという認識を植えつけないといけない。何の犠牲に基づいてこの「自由」が生まれているのか。内野はそれを選手たちに訴え続けた。
内野が大切にする2つの軸。
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「11人で決めたルールから逸脱してしまうと、誰かが法律を破って秩序を壊したということなので、それは自由なチームとは言えません。常に相手の守備の仕方や立ち位置を見て、どんどんこちらの立ち位置を変えていく。一種のリアクションサッカーです。相手のシステムに対して、優位性を持つことを教えることが大事。すべてのシステム、立ち位置には必ずストロングポイントとウィークポイントがある。いかに相手の良さを消す守備の立ち位置と、相手のウィークを突く攻撃の立ち位置を取り続けることができるか。
パターンで言えば、まず4-4-2、4-3-3、3-5-2の3つのフォーメーションにおける攻守の立ち位置を教える。その次にそれぞれの細かい部分を教える。そうすると結局、どの布陣でも相手のギャップをどう活用するかが重要になってきます。そのギャップを相手に悟られないように活用し、具現化することが『技術』だと思っています。この2軸を日々のトレーニングで積み重ねています」
周りからすれば「バルセロナスタイル」という聞こえはいい。多くの人が使いたがる傾向にあるだろう。しかし、「バルセロナはこうだから」とか、その時のトレンドに固執してしまい、柔軟性を失うことは育成年代にとって危険である。
また、逆に選手に自由を与え過ぎてしまっても、立ち返るべき戦術や戦略がなく、フットボールからかけ離れたものになってしまう危険性がある。
あくまでゲームで優位性を保つために秩序があり、原則があり、その先に技術がある。個人戦術とチーム戦術とリンクさせながら、共に成熟させていくというアプローチを理解していないと、「バルセロナのモノマネ」で終わってしまうのだ。
「枠組みだけを取り入れても上手くはいきません。いくつか引き出しを持っておいて、相手の状況を見て、どの引き出しを開けるかを考える。相手がどんなシステムできてもはめられないように、自分たちでどうするか。リアクションからのアクション。これを大切にしています」
それが見事に表れた試合があった。