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井上尚弥にバトンを渡した人がいる。
西岡利晃の「不滅のジョニゴン戦」。
posted2019/11/19 08:00
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
AFLO
日本の世界チャンピオンが海外に出て防衛する、それもKOで。
井上尚弥の登場によって、それは普通の光景となった。2017年9月、挨拶代わりとばかりにアメリカでアントニオ・ニエベスを棄権に追い込み、今年5月のWBSS準決勝ではエマヌエル・ロドリゲスを2回で沈めている。
「海外でKO防衛なんてまず無理」と言われた時代を過去にした。
Number990号のボクシング特集は井上の活躍を切り口に『KO主義』とタイトルがつけられている。主にここ20年の国内外の印象的なKOを取り上げており、筆者にも「近年で一番、印象に残ったKOについて何か書いてもらえないか」という要請があった。記事のラインアップに出ていないもので紹介するとしたら、やはりあの試合しかなかった。
僕は本棚から1冊の雑誌を探した。2013年1月に発売されたNumber PLUS『拳の記憶II 300人が語るボクシング不滅の名勝負』。
ページをめくり、敵地メキシコのリング上で左拳を突き上げて咆哮する男の写真にたどり着いた。
これだ。あの試合の記憶が、すっとよみがえってくる。
2009年5月23日、WBC世界スーパーバンタム級王者・西岡利晃がメキシコに渡り、元世界王者であり地元で絶大な人気を誇るジョニー・ゴンサレスとの2度目の防衛戦に臨んだ。「拳の記憶II」で描いたインタビュー記事を抜粋、再構成して掲載したい。(以下、再構成部分)
判定になったら採点は信頼できない。
至るところで「ジョニー」との声援が飛ぶ1万8000人収容のアレナ・モンテレイは熱気に包まれていた。
不利は西岡も覚悟していた。
「判定になったらどんな採点をつけられるか分からない。KO狙いではないとしても、明確に勝たないといけないと思っていた」
赤いガウンを目深にかぶって敵地のリングに入場した彼は、落ち着き払っていた。自分の名前がコールされる前、右のガードをアゴにつける仕草を何度も見せる。ゴンサレスの武器、左フックを警戒するため、セコンドにつく帝拳ジムの葛西裕一、田中繊大両トレーナーに「試合中もし(ガードが)下がっていたら言ってください」と耳打ちして念まで押した。