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山岳レースをラグビーのように。
世界王者・上田瑠偉が描く未来図。 

text by

千葉弓子

千葉弓子Yumiko Chiba

PROFILE

photograph bySho Fujimaki

posted2019/11/14 07:05

山岳レースをラグビーのように。世界王者・上田瑠偉が描く未来図。<Number Web> photograph by Sho Fujimaki

トレイルランニングのプロ、という存在が世間で知られているとはまだ言いがたい。それでも上田瑠偉は前へ進む。

ラグビーのフィーバーを山岳でも。

 上田が世界の舞台で戦っている頃、日本ではラグビーワールドカップが人々を感動の渦に巻き込んでいた。

 これまで決してメジャースポーツとはいえなかったラグビーが幅広い世代の人々の心を捉え、瞬く間に子どもたちが憧れるスポーツへと変貌を遂げた。その理由はもちろん日本チームの健闘にあるが、本来ラグビーが有していたスポーツとしての魅力が顕在化したからに他ならない。

 では、まだ日本でマイナーな山岳ランニングという競技においても、同じようなチャンスは訪れるのだろうか?

「ラグビーがここまで盛り上がった理由としては、やはり前回のワールドカップで日本が南アフリカに勝ったことが大きかったと思うんです。あれが布石になったというか。では日本における山岳ランニングはどうかと考えると、まだまだ足りない要素がたくさんあると感じています。

 そのひとつは業界に資金がないこと。資金があれば、大会開催時のパブリックビューイングやライブ中継も可能になってくると思うんですね。スカイランニングは壮大な景色の中を駆け抜ける競技なので、見ているだけでも爽快感があります。臨場感溢れる映像コンテンツを発信することができれば、もっと魅力が伝わるはず。まずは僕が活躍することで、山岳ランニングの認知度を高めていけたらと思っています」

“稼げる山岳ランナー”という目標像。

 そして「稼げる山岳ランナーになりたい」と上田はいう。

「これまで山岳アスリートのスポンサーはアウトドアメーカーが主流でしたが、僕はいま他の業界の企業からも支援を受けています。プロとして、新しい道をつくっていきたいんですよ。そうしないと、若い世代がこの競技に対して希望を持てませんから。それが僕の使命なんじゃないかと考えています」

 自らの手で新たな道を切り拓いていくという強い意志。そこには、佐久長聖高校の先輩である大迫傑とも重なる「決意」が見える。

 こんな話を聞いた。かつてイタリアのレースに出場したとき、上田の熱烈なファンだという少年がレース会場で声をかけてきた。ぜひにと自宅にも招待され、食事を共にした。その少年は今回、上田を応援するために最終戦の地・リモーネまでわざわざ駆けつけたという。

 スカイランニングの主戦場である欧州で、すでに上田に憧れる少年が生まれているという事実。それこそが、未来の上田瑠偉の姿を描き出しているのかもしれない。

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上田瑠偉

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