Number ExBACK NUMBER

山岳レースをラグビーのように。
世界王者・上田瑠偉が描く未来図。 

text by

千葉弓子

千葉弓子Yumiko Chiba

PROFILE

photograph bySho Fujimaki

posted2019/11/14 07:05

山岳レースをラグビーのように。世界王者・上田瑠偉が描く未来図。<Number Web> photograph by Sho Fujimaki

トレイルランニングのプロ、という存在が世間で知られているとはまだ言いがたい。それでも上田瑠偉は前へ進む。

下りで抜かされても心が折れなかった理由。

 総距離27km、累積標高差2600mという『リモーネ・スカイマスターズ』のコースプロファイルは、上田が得意とするジャンルだ。大会10日前から現地入りし、入念にコースを試走した。

 8km、15km、19km地点に大きなピークがあることから、当初は2つめの登りで仕掛けようと目論んでいたが、実際には最初の登りでトップに立った。

「欧州の選手の多くは冬場に山岳スキー競技に取り組んでいて、下りにとても慣れています。それらの選手に比べて、自分はまだまだ下りが成熟していない。彼らが仕掛けてくるなら、下りだろうなとは思っていました」

 しかし、この日の下りは上田にとって過去最高のパフォーマンスだった。その理由について、本人はこう分析する。

「昨年からパーソナルトレーナーをつけて、臀部を中心とした筋力アップに努めてきました。それにより、もともと強かった登りの力が一層強化されて、下りに入る段階でも余力があったんです。いつもなら、下りで抜かれるとメンタルが折れてしまうんですけれど、今回は体に余裕があったので、心を切り替えることができました」

日本国内にもはやライバルはいない。

 そして、諦めずにオリオルに食らいついていく。世界戦だからこそ経験できる究極の競り合い。日本ではすでにライバルが存在しない上田にとって、海外レースは自分を最も成長させてくれる場だ。

「以前の自分は彼らに追いつくこともできなかったんですよ。彼らの下りが間近で見られるようになったということは、この1年の大きな成長を意味しています」

 オリオルを捉えて再びトップに立った後、900mのアスファルトの下りを2分30秒で駆け下りる。このコースでのこのタイムは、スカイランニングで数々のタイトルを打ち立て、長らく山岳ランニング界の王者として君臨してきたキリアン・ジョルネ(スペイン)とタイ記録だ。

【次ページ】 ゾーンよりも「平常心」を選んで。

BACK 1 2 3 4 NEXT
上田瑠偉

陸上の前後の記事

ページトップ