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山岳レースをラグビーのように。
世界王者・上田瑠偉が描く未来図。 

text by

千葉弓子

千葉弓子Yumiko Chiba

PROFILE

photograph bySho Fujimaki

posted2019/11/14 07:05

山岳レースをラグビーのように。世界王者・上田瑠偉が描く未来図。<Number Web> photograph by Sho Fujimaki

トレイルランニングのプロ、という存在が世間で知られているとはまだ言いがたい。それでも上田瑠偉は前へ進む。

ゾーンよりも「平常心」を選んで。

 あらためて、シリーズ最終戦は上田にとってどのようなレースだったのか聞いてみた。

「そうですね、会心の走りができたレースだったと言えます。大会新記録を出したハセツネや準優勝したCCC、金メダルを獲ったユース世界選手権では、走っている最中にゾーンに入っていたんですね。ずっと楽しくて、苦しさが微塵もないという状態でした。でも今回はゾーンの一歩手前、かなりパーフェクトな状態のまま走り続けた、という感覚です」

 アスリートが経験する「ゾーン」という領域。上田はそれについて「自分の実力が上がるにつれて入れなくなる領域」と話す。しかしそれは、決してマイナス要素ではないとも。

「ハセツネで7時間01分13秒を打ち出したときには、明らかに実力以上の力が出ていました。でも、もう一度あのタイムが出せるかといったら、出せる気がしない。山の実力は確実に上がっていますけれど、あのタイムを破るイメージは全く湧かないんですよ」

 予想外の言葉に、驚かされる。どういう意味なのだろう。

「いまはレースでも平常心です、つねに。ゾーンに入るとある種のハイな状態になるわけですけれど、その状態は再現性が薄い。一方で、いまの自分のボディコンディションには再現性があると言えます。また同じ状態をつくり出すことができるんです」

 今回のレースでは準備段階から当日までのすべてのプロセスが明確で、それが再現性に繋がっているのだという。ゾーンを超えた先にある領域に辿り着くために、プロになってからの上田は“地力”を上げる努力を懸命に重ねてきたのだ。

目標の年間優勝を2年前倒し。

 来春からは日本を離れ、フランスに拠点を移す。まだ細かなことは決めていないが、4年ほど腰を据えるつもりでいる。

「欧州の山々をホームグラウンドにして、トレーニングを重ねていきたい。欧州でトップ選手たちと競り合う機会が増えれば、下りもより磨かれていくと思っています」

 これまでは「2020年の世界選手権(2年に1度開催)で5位以内、2021年のワールドシリーズで年間優勝が目標」と語っていた上田だが、その予定がだいぶ早まったことになる。

「ほんとですね(笑)。次の目標はやはり、来年開催されるスカイランニング世界選手権での優勝です。生活環境が大きく変わるので、優勝を狙うのは時期尚早かもしれないですけれど、自信を持って臨みたいと思っています。この1年で、自分は大きくブレイクスルーしたと感じていますから」

【次ページ】 ラグビーのフィーバーを山岳でも。

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上田瑠偉

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